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2018年2月28日 宗家利休忌

2018年07月13日(金)
天正十九年より数えて第四百二十八回遠忌となる「利休忌」が今年も二月二十八日、御宗家おいて行われました。寒さの厳しかった二月も末となり、この日はやや穏やかな日和。日は東京に春一番との予報もあり、ようやく厳冬を脱した安堵感を抱いて弥生町へ伺いました。
午前十時、すでに大勢様で溢れるばかりの三階大広間にお家元はじめ御宗家の皆様方が着座され、菩提寺・安立寺様がお入りになりますとご法要の開始となります。
正面の床にはご流祖以来伝わってまいりました利休居士の御像が祀られ、竹の三ツ具足には菜の花。並んだ御厨子の中にも立像が供えられ、掛けられた御軸は英一蝶筆、ご流祖讃の「寒山拾得」の双幅といずれも「利休忌」恒例のお設え。
安立寺様による読経にて利休居士の菩提と、江戸千家歴代お家元のご供養がなされ、さらに頃合いを見計らい若宗匠が進み出られて御供茶点前となりますが、今年は智大様が初めて半東をお務めに。厳粛な雰囲気の中にも例年とは違った空気が流れます。やがて若宗匠が点てられました御茶は智大様によって御像に供えられ、続いて若宗匠も御像の前に進まれ拝礼し合掌、ご参会の皆さんもあわせて拝礼されます。
読経を終えられた安立寺様が退出されますと、お家元より参列の御礼と本日のお席について、そして午後からはこれも利休忌の恒例であるご流祖考案の「五事一行」が執り行われる旨の御挨拶があり、今年の「利休忌」ご法要も滞りなく終了いたしました。
本年のお席は濃茶席が二階〈担雪軒〉、薄茶席が三階〈広間〉、そして同じく三階〈奥の間〉にて、これも例年通り竹葉亭調進の点心がご用意されておりました。
濃茶席〈担雪軒〉では若宗匠がお点前をされ、引き続きこちらでも智大様が半東に入られましたが、お席では専ら智大様が御供茶での初めて半東を立派に務められたことが話題の中心になっておりました。
床の御軸は利休忌に相応しく利休居士「消息」。内容は京の浄土宗四ヵ本山の一つである清浄華院の住職よりの茶壺についての問合せに対する返事のお手紙とのこと。今回は読み下し文を添えて下さいましたので内容が理解できました。
なお「宗易」「抛筌斎」という利休居士の道号と斎号の両方が記されている書状は珍しいのだそうです。
此壺眞壺にて候 我等も此
手つほ所持候 一段茶能
持申候 御秘蔵尤にて候
六月五日  宗易 (花押)
抛筌斎
浄花院性心老人 宗易
お花は加茂本阿弥に檀香梅。花
入はご流祖作の竹一重切で銘
「樊噲(はんかい)」。樊噲とは秦末~前漢に活躍した中国の武将。鴻門の会での逸話は特に有名で、豪傑として江戸時代の人々に愛されておりました。香合も利休忌らしく木魚の香合。ご流祖が自作と箱書に記された赤樂ですが、その精緻な作りには驚かされるばかり。
お釜は一元斎好写、雪輪地紋の広口釜。炉縁はあえて鉈目が残してある渋い炉縁。台目棚に水指もご流祖作、矢筈口の共蓋、底に彫り銘があるどっしりした赤樂でした。
茶入は利休瀬戸。釉薬の流れがはっきりとしたお茶入で、筆者は不明ながら箱に「此茶入ハ利休瀬戸とて川上不白家傳来の重器」云々と非常に細い字で書かれた貼札がございました。仕服は緞子で中に卍と龍のある檜垣紋。
御茶盌は御本呉器で銘「若草」。俳句の季語では晩春になりますが、明日から東大寺「修二会」が始まりますのでこれに因んだとのこと。呉器茶盌らしく撥高台で見込が深く、丈の高い端正な佇まい。出袱紗は白茶地唐草龍紋。茶杓はご流祖の替筒の添った丿貫(へちかん)の作。芋茶杓の一種になるそうですがとても独特な造形で、艶のある拭き漆が美しいお茶杓であります。広口釜の大きな蓋に合わせた大きな竹の蓋置は大亀老師在判の豪快な作。御茶は味岡松華園詰「千代の昔」。御菓子はこれも「利休忌」濃茶席では恒例の半田松華堂製「菜種饅頭」。
三階〈広間〉は薄茶席。お家元が御挨拶をされ、峯雪先生がお点前を務められました。
床には例年の如く「大順和尚筆利休遺偈 ご流祖筆 利休ケラ判」。年に一度のこの機会に改めてじっくり拝見。棚も恒例の旅箪笥。こちらには青が美しい一重口の三田青磁の水指が入り、釜は霰地紋に丸紋を散らした芦屋釜。茶器は一元斎好の面中次の雪華蒔絵棗。甲蓋に雪輪、胴に大きく雪華紋が描かれておりました。
主茶碗はご流祖箱、樂家五代宗入作「東陽坊写」。何度目かの拝見ですが、毎回その単純ではない色合の深さに魅了されます。替茶盌は萩。一見すると高麗茶盌のようでもあるのはやはり「七化け」の萩らしいところ。茶杓は共筒に〝八十翁〟とあるご流祖作の銘「冬嶺」。ご流祖の作としてはやや細目ですね、との声も。輪花盆に御菓子は〈広間〉席では恒例の青山菊家製「利休ふやき」と松江三英堂製「菜種の里」。
午後からは一旦お席を閉じられ、三階〈広間〉にて「利休忌」にのみ執行される御宗家の習わしである「五事一行」が行われました。
三階に再び大勢様がご参集に。お家元が間近から見守られ、皆様方が真剣な眼差しで御覧になるなか、ご指名を受けた五名様が席入され、廻り花・廻り炭・且座・花月・一二三と続けられた緊張感に満ちた約二時間でしたが、いつになく短く感じられたのは誠に円満で滞りなく「五事一行」が進んだ証しであろうと拝察いたしました。
この後、二席とも再び開かれお客様方が席入されて夕刻まで賑わいましたが、利休居士の遺徳を偲ぶ御宗家「利休忌」おいて、今年は前述のとおり智大様が御法要でも初めて半東を務められました。多くの方々がこれを大いに慶ばれておりましたことからも、江戸千家が新たな画期を迎えたことが強く印象付けられた一日でもありました。
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