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2018年4月29日 江戸千家不白会大茶会

2018年09月27日(木)
毎年四月二十九日の「昭和の日」に開かれております不白会東京支部大会ですが、本年は東京支部が創立七十周年、東京支部青年部も三十五周年を迎えたことから、記念の「大茶会」が芝の東京美術倶楽部にて開かれました。当日は誠に爽やかな快晴にも恵まれ、全国から例年以上に多くの方々が美術倶楽部にご参集になりました。
また同じ日の夕刻からは、東京支部七十周年記念のお祝いも兼ねた、お家元の「米寿祝賀会」が帝国ホテルにおいて開催され、こちらにも大勢様がご出席されました。

本年は次の計八席が設けられた文字通りの「大茶会」でありました。
第一席 花の間(濃茶) お家元席
第二席 月の間 山梨支部
第三席 雪の間 群馬支部
第四席 済美庵 宮崎宗房
第五席 大阪教場
第六席(立礼) 山田宗宣
第七席(隅炉・鏡点―本勝手・逆勝手) 東京支部青年部
第八席(おしのぎ席)
お家元席である第一席〈花の間〉は濃茶席。毎回お家元と翠鶴先生が御挨拶をされ、お点前もはじめにお家元が、続いて若宗匠が務められ、半東には終日智大様が入られました。
大きな床の間には大横物の御軸。
大徳寺第四一八世・宙宝和尚筆「松無古今色(松に古今の色無し)」。南宋時代に編まれた『五灯会元』にある禅語だそうで、常住不変の意があるとのこと。また有名な対語が「竹有上下節(竹に上下の節有り)」。
古銅の尊式花入には立派な大山蓮華。香合は無学和尚の箱書に「孤峰居士好」とある金獅子香合。赤樂に黒を塗ってから金箔を貼ったという凝った技法で、時を経て落ちついた輝きを放っておりました。
釜は箱に大西浄長が元禄頃の「古道弥」の作と極書した鬼面鐶付繰口釜。「古道弥」とは京都三条釜座西村家二代・通称弥一郎を指すかと思われます。炉縁は宗哲真塗。同じく真塗の及台子には浄益作の南鐐皆具。置茶器はご流祖好の雪月花棗。二代自得斎の箱書が飾られておりましたが、これは珍しいものだとお教えいただきました。茶入は宗鶴師手造の赤樂。発色も形も衒いのない素直な作り故に、「小振りで可愛らしい」との声にも納得した次第。仕服は大燈紋金襴。
茶盌は一元斎手造の三朝焼。お目出度く胴に「壽」「萬歳」と書かれた二つを使い分けておられました。出袱紗もご流祖好の青海波千鳥金襴。茶杓はご流祖の作としては珍しい煤竹を用いられた銘「三番叟」。能楽の祝言曲である『翁』で三番叟役が黒色尉という黒い面をつけることからの御銘ではないかと。御茶はお好みの「千代の昔」松華園詰。御菓子は毎年のお馴染み鶴屋八幡製「緑」。
記念の大茶会ということで、他のお席がより華やかで祝意に満ちたお道具組であったのに対し、今回の〈花の間〉は、黒を基調にした落ち着きを持った設えになっておりました。これは床の御軸が示す〝常住不変〟の心構えをあえて表されたのではと勝手ながら拝察した次第です。
また脇床には例年の如く智大様初節句の折にお家元が贈られたというお人形が飾られておりましたが、智大様もこの春から大学生に。終日半東を務めあげられていよいよ頼もしく、お客様方も実に感慨深げでありました。
さて、設立三十五周年を迎えた〈東京支部青年部〉のお席は4階の第七席。毎年その御趣向を楽しみにして伺っておりますが、今年は大変に難しいお点前に挑戦されました。題して「隅炉・鏡点―本勝手・逆勝手」。向切での鏡点はテキストにも載っていないお点前なので、特別にお家元にお教えいただいたとのこと。いわば当日は特訓の成果を御披露になるお席であり、写真の通り大勢のお客様方が多方向から見つめられる中でのお点前ですから、務められる皆さんの緊張感がいやが上にも伝わってまいります。
しかし青年部長である峯雪先生が「皆さん本当によくお稽古をして下さいました」と感謝の言葉を述べておられたように、皆さんが相手と息を合わせながら高難度のお点前を見事に務められたことに唯々感服いたしました。
第七席ではお点前だけでなくお道具組も充実。特設の床にはお家元筆の一行「祥雲浮紫閣」。これにも対句があって「喜気繞朱軒」。お祝いの茶会に相応しい御軸でありました。
清水久嗣作の瀬戸花入にお花は虫狩、先代萩、姫百合が生けられ、色鮮やかな扇面香合は浅見五郎助作。またお家元米寿を祝してご流祖好の寿万頭棗が拝見できたのも有難いこと。沓形の主茶盌は若宗匠手造の萩。艶やかな替茶盌は亀井味楽作。茶杓も若宗匠の作で銘「薫風」。御茶「深雪の白」は山政小山園詰。糸目の銘々皿にお菓子は赤坂塩野製「蘭」。その他実際のお点前においても本勝手、逆勝手とも趣向を凝らした多彩なお道具を用いられたのも楽しく、また美しく感じられました。
「第二席」から「第六席」までの詳細につきましては、紙量の都合上文末掲載のお会記をご参照いただくとして、以下各お席にて印象に残ったいくつかを御紹介。どのお席も東京支部七十周年とお家元の米寿を祝してのお目出度いお道具組になっておりました。
第二席〈月の間〉では山梨支部の皆様がお席持をされました。お家元米寿ということで〝鶴〟を主題のお道具組に。床の御軸はご流祖筆の一行「鶴巣千尺松」。豪快な筆遣いに驚かされます。また西條一斎作の鶴蒔絵棗も黒地に金蒔絵が美しく、これに並んで主茶盌から三盌、旦入の赤樂、仁阿弥道八の老松、沈壽官の薩摩がいずれも立派な佇まいでした。
第三席〈雪の間〉は群馬支部様のお席。床には「八十二翁 不白」とあるご流祖筆「清風生蓬莱」。この日の季節感に寄り添うような御軸でした。香合も面白く、高橋峯房作の乾漆による烏帽子香合。主茶盌にお家元手造の赤樂、銘「常盤」。替茶盌には宗鶴師手造の黒樂で銘「小湖」。宗鶴師の黒樂は珍しいうえに、こちらは赤城で作られたということで、お茶盌にまつわるお話を楽しくお聞かせいただきました。
第四席〈済美庵〉は宮崎宗房様がお席主の小間。床の御軸は如心斎筆「頭上漫々脚下漫々」。こちらは『碧巌録』にある禅語。〈済美庵〉の雰囲気とも相俟って暫し見入ってしまいました。主茶盌は自得斎手造の赤樂、銘「若葉の露」。箱書に「七十六翁 自得齋(花押)」とあるのも珍しいとのこと。さらにご流祖在判の黒中棗は宗哲作でしたが、ご流祖の箱書に「八十八 不白」とあることからこの日のお席には正に好適。お家元への祝意を込められたことが伝わってまいりました。
3階に設けられた第五席は大阪教場の皆様方によるお席。特設の八畳と床の間のお茶席ですが、お道具組が見やすいようにと、お客様方にはあえて床几にて御茶を。じっくりと拝見出来ると好評でした。無学和尚筆の一行「萬歳萬々歳」は躍動感のある筆致。ご流祖好写、矢筈爪紅の長板には高木治良兵衛作の欄干風炉と、金~元代の磁州窯で焼かれたという絵高麗水指は静謐な明るさのある逸品。また加賀蒔絵・野村大仙の技巧を凝らした茶器は銘「和歌の浦」。見事な作に多くのお客様が手に取って拝見されておりました。
同じく3階の第六席は山田宗宣様がお席主の立礼席。高円卓にご流祖作の赤樂(銘「手まり」)、緑が鮮やかな吉向松月作の山並、朝日豊斎作の月白釉流しの三盌と、眞清水蔵六作の松竹梅が描かれた水指が並びますと実に多彩で立礼席らしい華やぎがありました。また床にはご流祖筆「鶴の画讃」。橋村萬象作の置上七角の香合には豊穣唐草模様が描かれており、いずれもお祝いの気持ちが醸し出されておりました。
《会記》
第二席〈月の間〉 主 山梨支部
床 流祖筆一行
鶴巣千尺松 一元斎宗匠書付
花  花筏 鉄線 姫卯木 オガタマ
壷珊瑚 苧環 紫蘭
花入 唐物耳付籠  
香合 堆朱 龍文
風炉釜 不白好菊桐紋透木 家元箱
先 筏形 現代名工雨宮摶作
棚  米棚 梨地
水指 古伊万里 福禄文
茶器 鶴蒔絵 一斎作
茶碗 旦入作 赤
替 老松 仁阿弥道八造
替 薩摩 沈壽官造
茶杓 当代家元作 筒箱共
銘 佳き日
建水 砂張 家元箱
蓋置 朝日焼 十五代豊斎造
御茶 松の齢 味岡松華園詰
菓子 山ゆり 瓦屋製
器 瀬戸焼
以上
第三席〈雪の間〉 主 群馬支部
床 流祖不白筆 清風生蓬莱
花  八角蓮 熊谷草 先代萩
花入 菱編提梁花籃 尚古斎
香合 源氏烏帽子 峯房
脇床 松楓蒔絵硯箱
釜  富士釜 九吉
風炉 鳳凰風炉 奥平了保
風炉先 一元斎好 菊桐透
棚 亀甲棚
水指 南京染付
茶器 柳松蒔絵 嘉祥
茶碗 当代家元造 赤 銘 常盤
替 宗鶴師造 黒 銘 小湖
替 藤の絵 珉平
茶杓 一元斎作
建水 砂張 浄益
蓋置 五葉 香雲
御茶 深雪の白 小山園詰
菓子 蓮華躑躅 青柳製
器 染付青楓
以上
第四席〈済美庵〉 主 宮崎宗房
床 如心斎筆
頭上漫々脚下漫々 箱共
花  甘茶 袖隠
花入 備前焼 三村陶伯造
香合 祥瑞立瓜 男山焼
炉縁 薬師寺旧佛足堂古材 鳳獄作
釜  桐地紋 大西清右衛門造
水指 古瀬戸
茶器 黒中棗 不白在判 宗哲共箱
茶碗 二代自得斎手造
銘 若葉の露 共箱
替 対州御本 茂三造
替 薩摩 鉄線絵
茶杓 当代作 銘 清流 筒箱共
建水 砂張 瓢籠 一ノ瀬宗辰造
蓋置 銘 雲鶴 宮崎寒雉造
御茶 寿泉の白 ほ里つ詰
菓子 かぐや姫 菊家製
器 輪島塗
以上
第五席 主 大阪教場
床 無学宗衍筆 萬歳萬々歳
花  利休梅 十二単 芍薬
白の紫蘭 卯の花
花入 手付唐物籠
香合 亀 久田宗円極 花押
土佐光貞造
風炉釜 欄干風炉 治良兵衛造
風炉先 一元斎好 菊桐
棚  長板 流祖好写 矢筈爪紅
水指 絵高麗 磁州窯 島津法樹極
茶器 銘 和歌の浦 野村大仙造
和歌の浦に 潮満(しおみ)ち来(く)れば 潟(かた)を無(な)み
葦辺(あしべ)をさして 鶴鳴(たづな)き渡(わた)る 山部赤人詠
茶碗 高麗 銘 一文字
替 色絵 丁字紋 薩摩焼
茶杓 如心斎作 銘 常盤 即中斎箱
建水 毛織(モール) 浄益造
蓋置 青海波 十二代理平造
御茶 当代好 松の齢 松華園詰
菓子 上がり羊羹 松華堂製
数茶碗 二種 和田桐山造
水注薬罐 草花彫 御所薬罐
以上
第六席〈立礼席〉 主 山田宗宣
床 御流祖筆 鶴画讃
首長く はし又ながく 足ながく
よわいもながく 純く揃い鶴
花  ベルテッセン ルージュブラン
屋久島升麻 都忘れ 先代萩
花入 籠 飛来一閑造
香合 豊穣唐草 橋村萬象造
置上七角
釜  車軸 吉羽與兵衛造
棚  高円卓 当代好
水指 三友 松竹梅 眞清水蔵六造
茶器 軽部漆 雲鶴蒔絵
茶碗 御流祖 赤 手まり
幾春と津きぬ手まりや千代の数
替 山並 吉向松月造
替 月白釉流し 朝日豊斎造
茶杓 御流祖 白鶴 共筒
建水 樂
蓋置 一元斎好 雪輪
御茶 寿泉の白 ほ里つ詰
菓子 干菓子 東宮製
器 記念の品
以上

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