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第五十回 護国寺慈善茶会

2018年01月4日(木)

第五十回 護国寺慈善茶会
十二月十一日(日)
師走のお茶会としてすっかり定着しております護国寺様の主催による「慈善茶会」(後援:読売愛と光の事業団)も今回でちょうど五十回目を迎えました。本年もお家元が〈不昧軒〉にてお席持ちをされましたが、大勢のお客様がお見えになり、終日賑わっていたこの日の〈不昧軒〉でありました。
前週に行われた「茶筅供養」と同じように快晴ではありましたが、大気はぐっと冷え込み、ほんの一週間で体感気温がまるで違うこと、そして境内の紅葉も様変わりしていることに驚きかされ、いよいよ本格的な冬の到来が感じられた一日でした。
そんな寒さの中でお待ちになっているお客様に供せられるのが慈善茶会恒例の御菓子、蒸かし立て「蕎麦饅頭」(半田松華堂製)であります。毎年蒸かし具合の調整にご苦心があるようにお見受けしておりますが、立ちのぼる湯気の向こう側のお客様方の笑顔を拝見しますと、これもまた歳末の風物詩のように思えてまいります。
今年のお席は〈不昧軒〉にて。毎回お家元は御挨拶に出られ、お点前は若宗匠がお務めになりましたが、半東をこのお茶会では初めて智大様が務められましたことが本年第一の特徴でございました。
床の御軸は江戸時代初期の大徳寺一六九世・天祐和尚の筆による横物「雪團」。これは“ゆきころがし”あるいは“ゆきころばし”と読むそうで、歳時記などには冬の季語として収まっておりますが、要するに雪達磨のための雪玉を作るあの遊びのこと。誰もが覚えのある遊びですから親しみの持てる語句ですが、ここからお道具組は「雪尽くし」の御趣向に入ってゆきました。
存在感のある花入は四代鶴叟宗匠の箱書付の添う表千家四代江岑宗匠作竹一重で銘「雪月」。こちらは“ゆきつき”と読む12月の異名のことですから、誠に本茶会に合った御銘。また、〈不昧軒〉の大きな床と、この立派な花入が映えるよう、翠鶴先生によって葉付蝋梅と曙椿が大きく、美しく生けられておりました。
香合は樂十代旦入作の「曳舟」は実にユニークな造形。なぜこれが「曳舟」かといえば船頭を模しているからとのこと。「雪の中、笠をかぶった船頭さんが舟を曳いているのです」とお教えいただき合点がいった次第。
さらにここから話題は表千家堀内家伝来の有名な曳舟の風炉先屏風のお話に移りました。堀内家初代仙鶴宗匠筆の画には三人の人物が描かれておりますが、その三人とは仙鶴宗匠ご自身と如心斎宗匠、そしてご流祖なのでそうです。さらに日付も場所も分かっていて、12月13日の「事始め」の日、紀州から京へ戻る途中、舟で男山八幡宮(今の石清水八幡)のあたりを通った折の雪景色が描かれているのだと(もっとも有名なお話らしく席中で驚いているのは当方だけでしたが)。
小さな香合からお話がここまで広がってゆくのもまたお茶席の面白く奥深いところかと感じ入りました。
名人守屋松亭による美しい雪輪蒔絵が施された炉縁に、お釜は西村九兵衛作の蒲団釜。ねっとりした膚と丸味を帯びた形が寒い季節のお席によく似合います。また、撮みが重ね餅風の型なのもこの時季らしいもの。
ご流祖好の四ツ折の風炉先屏風は、御流儀の方々にはお馴染みのものですが、他の御流儀よりのお客様からたびたび感嘆の声があがるほど大好評だったのはちょっと意外なことでありました。
朱の雪輪棚に、水指は明末から清初頃に製せられた染付。元々は大型の香炉だったものを水指に転用されたようです。
ご流祖好、雪輪蒔絵の大棗は天板が平面という珍しい形の茶器。
主茶碗はご流祖手造の赤楽で銘「比良」。高台に小さく「八」とあることから、近江八景の内「比良暮雪」であることは間違いのないところかと。一方の替茶碗はご流祖の箱書の添った金海茶碗。白の美しい発色と独特のフォルムが、どこか御軸の語句と通じ合っているように感じられたお茶碗でした。
茶杓もご流祖の作で銘「雪折」。これも冬の季語ですが、ご流祖が共筒に「雪折 織部屋敷ノ竹 八十三翁 不白(花押)」と書かれているのがちょっと不思議な感じを受けます。織部屋敷ということは京都の竹なのだろうかとか、樋の浅いところもご流祖の作としては珍しいというお話を聞くにつけ、いろいろと謎めいてくるお茶杓でありました。
その他のお道具組の詳細につきましては以下の掲載いたしますお会記を御覧いただくとして、編集部にとりましては一年納めのお茶会。そのお席で御茶の楽しさと奥深さを改めて感じられたのは何よりも有難いことと深く感謝いたしました。
この日の〈不昧軒〉は、歳末の雰囲気に相応しい誠に見事な「雪尽くし」のお茶席でありました。

〈当日の会記〉
平成二十八年十二月十一日(日)
音羽護国寺・不昧軒
主 江戸千家宗家家元
川上閑雪
床 天祐和尚 横二字
雪團
花  葉付蝋梅 曙椿
花入 江岑 竹一重
銘 雪月 四代鶴叟箱
香合 曳舟    旦入造
釜  蒲団釜   九兵衛造
風炉先 流祖好 四ツ折
炉 縁 雪輪蒔絵 守屋松亭造
棚  雪輪棚 赤
水指 染付 香炉形 人物紋
茶器 流祖好 雪輪 大棗
茶碗 流祖手造 赤
銘 比良    共箱
替 金海   流祖箱
茶杓 流祖 銘 雪折  筒箱共
織部屋敷ノ竹
建水 砂張
蓋置 一元斎好 雪輪
御茶 松の齢  味岡松華園詰
菓子 雪 蕎麦饅頭
半田松華堂製
器  縁高
以上








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