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2017年5月16日 大徳寺塔頭玉林院「洞雲会月釜」若宗匠席持

2018年04月20日(金)

五月十六日(火)、京都・大徳寺塔頭玉林院〈洞雲庵広間〉での「洞雲会月釜」において、若宗匠がお席持をされました。「洞雲会」でのお席持は平成二十七年六月以来のこと。
玉林院様についてはその折の取材記(本誌平成二十七年八月号掲載)に詳しく記しましたのが、大徳寺境内の南西に位置する玉林院はご流祖が如心斎宗匠とともに主に参禅された塔頭であり、参禅の師・大龍和尚もこちらには長く居られたことから江戸千家にとっては非常に御縁のあるお寺であります。また大龍和尚に帰依した豪商・鴻池了英が建てた「南明庵」及びその左右の茶室「蓑庵(さあん) 」と「霞床席(かすみどこせき)」は重要文化財に指定されており、どちらも如心斎宗匠のお好みとして知られております。
「洞雲庵」は片桐石州の師である桑山宗仙が慶長年間に建立し、その後何度かの修復を経て、現在の建物は昭和十九年に再建されたもので三畳と八畳の茶室がございます。前回も述べましたように玉林院では月三回の月釜以外通常は原則非公開。「簑庵」や「霞床席」を外側からとはいえ間近に拝見できたのは貴重な体験でありました。
さて、ほの暗いお席に入ってまず目に飛び込んでくるのが翠鶴先生が大きく生けられた大山蓮華と都忘れ。多くのお客様が「こういう生かし方があるのか」と囁かれていたのが納得出来る美しさがありました。花入は本誌連載でお馴染み当代池田瓢阿さんが作られた唐物写の牡丹籠。
御軸は表千家六代覚々斎宗匠筆、当代而妙斎宗匠の箱書付の添った
「クズ家の画讃」
川あいの 誰(た)か屋敷へか 郭公(ほととぎす)
〝キ(其)角(の)句〟とありますので調べてみましたが出典は見付からず、しかし季節を感じさせつつどこか心を穏やかにしてくれる画讃であります。香合は火焔太鼓蒔絵の施された一文字。作者は梶川文龍斎。幕府の御用印籠師でご流祖とも親交があったとのこと。これを選ばれたのは前日が「葵祭」だったためで、この他にもいくつか「葵祭」に因んだお道具を取り込まれておりました。
しかしこの日のお道具組の中心となったのは長板に風炉釜とともに置かれたラスター彩の皆具でありましょう。ラスター彩とは、金彩に似た美しさを持つペルシャ陶器の最高峰で9~14世紀頃がその最盛期でしたが、500年ほど前にその技法は消滅したと言われます。日本では人間国宝の故加藤卓男さんがその復元に取り組まれたことで有名ですが、この日の皆具はなんとスペイン製。建水の裏には「HECHO EN ESPÑA」( 英語のMade in Spain の意)の表記が。かなり以前に若宗匠が譲り受けられたそうですが、お茶席に用いられたのは今日が初めてとのこと。写真で見ますとキラキラした感じですがこれは撮影用照明のせいで、かなり暗い洞雲庵にて拝見しますと「ラスター(luster)」が〝落ち着いた輝き〟を意味することがよく理解できました。また共に飾られた火箸は高木治良兵衛作の南鐐鈴頭黄銅。御献茶のために誂えられたそうで、鈴頭を振ると上品な鈴の音が聞こえてきます。これも「葵祭」に因んだもの。
その他お道具組の詳細については以下のお会記を御覧いただくとして、いくつかを駆け足で補足します。八ッ橋蒔絵の棗は木地が村瀬治兵衛、塗りが渡辺喜三郎、蒔絵が守屋松亭と名工三人が揃った豪華な逸品。主茶盌のご流祖作の赤楽で銘「粟津」は近江八景〈粟津晴嵐〉より。替茶盌は江戸前期の対州焼、松村弥平太による絵御本。鳥のようにも見える不思議な絵柄でした。茶杓は御軸から流水紋の風炉先、八ッ橋蒔絵と「川」のイメージで繋がる銘「舟橋」。こちらは啐啄斎宗匠の作としてはやや厚みのある茶杓でありました。
それにしても静かな「洞雲庵」。聞こえるのは鳴く鳥の声のみ(ホトトギスではなくウグイスだったのは少々残念)。実に贅沢な空間でゆったりとした気分で御茶を頂戴しておりますと、若宗匠より「今回は少し冒険してみました」とお話いただきましたが、「洞雲会月釜」のお道具組にラスター彩の皆具を組み込まれた若宗匠の試みは京都のお客様方の目に新鮮に映ったようで大好評であったと感じられました。また、お手入れの行き届いた木々や苔庭の美しさは前回感じた通りですが、どこか違う印象を受けたのは前回が六月、今回が五月であったため。ひと月違いでこれほど御庭の表情は変わるものかと驚き、この移ろいやすい季節感と歩調を合わせつつお茶席を作り上げてゆく難しさと楽しさを実感できた今回の玉林院「洞雲会月釜」の御報告であります。
〈会記〉
大徳寺玉林院洞雲会月釜
時 平成二十九年五月十六日(火)
処 玉林院洞雲庵広間
主 江戸千家宗家 川上紹雪
寄付
床 森村宜永筆 時鳥
本席
床 覚々斎筆 画讃 クズ家
川あいの 誰か屋敷へか 郭公
而妙斎宗匠箱書付
花  大山蓮華 都忘れ
花入 籠
香合 火焔太鼓蒔絵 一文字
梶川文龍斎造
釜  流祖孤峰不白好
真形 菊地紋 名越造
風炉 流祖孤峰不白好
透木 桐地紋 名越造
風炉先 料紙流水紋
棚  真 長板
皆具 西班牙 ラスター彩
飾火箸 南鐐鈴頭黄銅
治良兵衛造
茶器 八ツ橋蒔絵 棗 松亭造
茶盌 不白手造 赤
銘 粟津 共箱
替 弥平太 絵御本
茶杓 啐啄斎作 銘 舟橋 共筒
不白箱書付
御茶 当代閑雪好
翠巒の恵 一乗園詰
菓子 花菖蒲 紫野源水製
器 染付 兜鉢
以上
(「孤峰―江戸千家の茶道」平成29年6月号より)

正客に小宮山宗輝様をお迎えしてお点前をされる若宗匠
〈洞雲庵〉火焔太鼓蒔絵の香合
お客様と談笑されるお家元と翠鶴先生
〈洞雲庵〉ラスター彩の皆具についてお話になる若宗匠
玉林院〈洞雲庵〉の床

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