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御宗家初釜

2016年02月12日(金)

御宗家初釜
一月十日~
ご宗家での初釜が例年通り一月十日より始まり、連日多くの方々がお見えになったとのこと。当編集部もお招きを受け、十三日(水)正午にお伺いいたしました。東京はこの前後から急速に寒さが厳しくなり数日後には都心でも数センチの積雪がありましたが、この日ばかりは誠に暖かで穏やかな天気に恵まれました。
寄付で緊張しつつお待ちしておりますと、御案内を受け〈花月楼〉へ。露地には敷松葉、青竹の美しさが光に映え、気持ちも新たになってお席入りができます。
まずはご流祖寿像に新年の御挨拶。目にも鮮やかな白菊と万両が生けられております。それからは他のお客様の邪魔ならぬようそっと体を動かしつつ正面の床をしみじみと拝見。ご宗家新春吉例の飾付はご流祖筆の双幅「千年丹頂鶴 萬年綠毛亀」が掛かり、大きな鏡餅を中央に、右にはご流祖好の金獅子香合、左には如心斎好嶋臺茶?一対と無學宗衍の由来書。さらに眼を右に移せばご流祖筆「宝舟の画讃」にご流祖作の赤楽嶋臺写。また脇床の青竹には紅白の玉椿と大きく枝垂れる結び柳。今年も竹台子から嶋臺茶?のあたりにまで長く届いているのが美しく、また新春を迎えた嬉しさまでが感じられます。
注連縄飾りの竹台子に朱桶の水指とご流祖好菊桐文の皆具。亀の鐶付の寿釜は浄元の作。炉縁は鶴の蒔絵。お茶?は如心斎写了入作の嶋臺にお茶杓は一元斎宗匠作の銘「福寿草」。いずれも御初釜〈花月楼〉では吉例のお道具組であります。
さて昨年と同じくこの日のお席には、正客に速水流御家元速水宗樂様、次客に織部流扶桑派御家元尾崎米栢様、三客には小川宗洋様、さらに四客には本誌連載でお馴染み福田行雄様がお入りなりました。
お客様が座に着かれますとお家元、峯雪先生、智大様が進み出られて鄭重に新年の御挨拶を申し述べられ、次いでお家元が点前座に着かれてお点前をなされました。半東には峯雪先生、そして智大様がお運びをお務めに。高坏に盛り付けられた御饅頭は銘「蓬莱山」。こちらは本年より京都・末富製となりましたが、五色の餡は華やかで例年通りの美しさ。
金襴に宝尽くしの仕服に阿古陀形の茶入、そして嶋臺茶?に実に丁寧に御茶を練られるお家元のお点前を拝見しておりますと、初釜にお招きいただいたことに感謝せずにはいられませんでした。
お濃茶を頂戴して落ち着きますとお道具についてのお話に。今年の出袱紗は土田友湖作の西遊紹巴。浅緋の地には干支に因んで如意棒や筋斗雲が。また一元斎宗匠作の茶杓「福寿草」は戦時中の作ではないかとの話題から、お正客の速水様より当時の京都での貴重なお話を拝聴できたのも思いがけない有難さ。統制経済の戦時中、御茶の葉も統制品に。そのような中でも茶道に励まれた皆様方のご苦心と熱意が偲ばれたお話でありました。
改めてお家元より御言葉を頂戴して三階〈広間〉点心のお席へ。こちらでも例年の通り若宗匠が皆様をお出迎えになりました。御膳は今年も東京??兆調進。ご流祖好松竹梅の朱塗の引盃に若宗匠が御酒をお勧めになり皆様とともに盃をあげて新年をお祝いいたしますと、まさに和気藹々たる雰囲気が〈広間〉に満ちてまいります。途中からはお家元もお入りになりお客様お一人おひとりに御酒を勧められ、その丁重なおもてなしには恐縮するばかり。御歓談の声も一層賑やかになります。
やがて恒例の福引となりましたが、今年は「福」を速水宗樂様が、「禄」を尾崎米栢様が引き当てられ、まさにお正客とお次客にお家元の書が贈られるという珍しいこととなり皆さんも驚かれたご様子でした。
続いて二階〈担雪軒〉にて翠鶴先生のお点前にて薄茶を頂戴いたしました。
床の御軸はご流祖八十二歳の御筆で干支に因んだ「猿の画讃」。
富は是 優((ま))さるといへり 今朝の春
青竹の花入にはつくばねと椿。香合は獅子香合。釜は貝鐶付の天命釜。双鶴棚に水指は緻密に梅が描かれた瀬戸。色、形、絵柄のどれもが見事な水指で多くのお客様がじっくりと御覧になっておりました。
君が代棗に主茶?はご流祖作の赤楽、銘「竹」。ご流祖の箱書に「唐土ヲ以造」とあるどっしりとしたご流祖らしいお茶?。替茶?は近江の高原焼という珍しいもの。口縁部に注連飾りが描かれているお正月に合ったお茶碗でした。後日高原焼について調べましたところ、近江国甲賀郡朝宮村の産で、慶長年間に肥後の高原藤兵衛という人が朝宮の地に良い土があることから摂津より移って来て開窯、それ故に「高原焼」の名になったと。寛政年間に再興されましたが、現在では窯跡があるだけで廃窯とのこと。かなり時代を経たものらしく使い込まれたことによって深い色合となっておりました。
〈担雪軒〉では数茶?も多種多様なものをご用意になり、お客様方も大変に喜ばれておりましたが、中でも三浦竹泉作の猿尽くし染付茶?が面白いと注目を集めておりました。
茶杓はご流祖作の銘「松ヶ枝」。蓋置は申歳らしく三猿、すなわち見ざる言わざる聞かざるを象った磁器製。結構な作とお見受けしましたが、ご流祖が箱にわざわざ「求めに応ず」と書かれているので、「あまりお気に召さなかったようですね」と翠鶴先生がお話下さるとお客様方に笑顔が拡がります。御菓子は鶴屋八幡製「紅白きんとん」。
初釜ではいつもお家元より「家の習わしとはいえ毎年同じ飾り付けでは記事を書かれるのも大変でしょう」とお心遣いをいただき恐縮しておりますが、同じようでありながら、去年とは違う今年の御茶、今年のお花、今年の御菓子等々の積み重ねによって作られてきたのが江戸千家の歴史ではないかと、麗らかな気分の中でどこか強く感じられた御初釜でありました。
結びが少々堅苦しくなりましたが、当編集部も微力ながらその一端を担っているのだという気概を持たねばと自らを戒めた次第です。










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