第四十九回
護国寺慈善茶会
十一月二十九日(日)
毎年護国寺様が師走に催される「慈善茶会」(後援:読売愛と光の事業団)の第四十九回目が旧臘十三日に開かれ、お家元が〈圓成庵〉にてお席を持たれました。
当日は朝から小雨の降る底冷えする一日でしたが、「去年より暖かい」という声が聞こえてくるように、毎年このお席を楽しみされているお客様が多くお出ましになりました。
〈圓成庵〉では若宗匠がお点前を。床の御軸は如心斎筆、?啄斎箱の「橋の画讃」。備前尹部焼の耳付花入には翠鶴先生により加茂本阿弥椿、きささげ、寒菊が生けられ、宋胡録の柿の香合。
釜はご流祖の共箱のある古浄元こと大西家九代浄元作の尻張釜。胴にご流祖の書が鋳込まれており、正面に「笑丸窟」、反対側に「常住」、下座の鐶付の下には花押があることから、笑丸窟という茶室の常住釜であったらしく、さらに花押の位置から推定してその茶室は隅炉か向切であったのだろうと若宗匠よりお教えいただきました。
南蛮〆切の水指は七代蓮々斎の箱に「横すだれの手」とあり、銘が「香炉峰の雪」。これは『枕草子』第二九九段にある有名な中宮定子と清少納言とのエピソードに因んだもので、口作り周辺の波のような模様を横すだれとし、これを巻き上げた御簾に見立てた御銘とのこと。御軸の雪と水指の雪の取り合わせ。さらに師走らしく来年への橋渡しの意を込めた御軸。
茶器は如心斎在判在銘の一閑張金林寺中棗でご流祖の共箱。蓋裏に朱書の花押があり、箱には「如心書付有 不羨」と記されているのでお若い頃の筆であろうと。
この日は茶杓も如心斎の作。共筒に「逢源斎枯木写」と書かれておりますので、表千家四代逢源斎江岑作「枯木」の写しらしく、そのためよく拝見する如心斎宗匠作の茶杓とは異なり、櫂先がたっぷりと作られておりました。
主茶?はご流祖箱、樂家五代宗入作「東陽坊写」。本歌はご存じ「長次郎七種」の一つ。単純な黒ではない深みのある色合に魅力のある逸品。替茶碗は高麗御本。大振りでしかも傷がまったくない稀有な茶?。「濃茶席でもつかえそうですね」というお話も出るほど立派な佇まい。
その他のお道具組の詳細については以下に掲載しますお会記を御覧いただくとして、「慈善茶会」恒例の御菓子といえば温かい「蕎麦饅頭」ですが今回から半田松華堂製に。いつものように蒸かし立てが供せられましたが、お家元が「アレルギーをお持ちの方は別の御菓子も用意しておりますから」と申し出られるなど誠に行き届いたご配慮もあり、長時間露地でお待ちのお客様方に対し幾重にも心遣いをされていたお家元はじめ御宗家の皆様方に深い感銘を受けた一日でありました。
〈当日の会記〉
平成二十七年十二月十三日(日)
音羽護国寺圓成庵
主 江戸千家宗家家元
川上閑雪
床 如心斎画賛 ?啄斎箱
雪けしき橋を渡るは風ばかり
花 加茂本阿弥 寒菊 きささげ
花入 尹部口広耳付
香合 宋胡録 柿
釜 浄元 尻張
炉縁 桑木地
水指 南蛮〆切 銘 香炉峰の雪
茶器 如心斎在判 一閑 金林寺
流祖箱
茶碗 宗入 東陽坊写 流祖箱
替 御本
茶杓 如心斎 江岑枯木写
如心斎筒 二代宗雪箱
建水 内黒 木地
蓋置 三猿 流祖箱
御茶 松の齢 味岡松華園詰
菓子 蕎麦饅頭 半田松華堂製
器 縁高
以上