直門皆伝者研究会
―八月二十五日~二十七日
リオ五輪の閉幕から三日後の八月二十五日から三日間、今年も恒例の「直門皆伝者研究会」が江戸千家会館において開かれました。
この会は支部長か支部長に準ずる方で、真台子をお受けになっていらっしゃる方(東京の場合はお受けになって三年以上の方)という特別な資格の方々が参加できる研究会です。残暑の厳しい三日間でしたが連日大勢様がご参集になりました。
初日は快晴、最高気温は三十二℃。開会までの時間に扇子で涼をとられる方々を多くお見受けしました。定刻の十時半を少し過ぎて開会。まずはお家元よりの御挨拶、本年度の研究会の主旨と講習内容についてお話下さいました。
今回は初日が透木釜、二日目と三日目は釣り釜でそれぞれ炭点前の付いた「茶通箱」「唐物点」「向切での濃茶点前」の講習、さらに連日午後には「通い付き且座」「一二三」「雪月花」が行われるという内容の濃い研究会でありました。
初日〈午前の部〉の講習は八畳で前述のとおり「透木釜にて炭点前・茶通箱」。正客・次客・三客・お詰と東の五名様の名前が呼び上げられていよいよ三日間の講習がスタート。
まずは席入りから始まりお客とご亭主の御挨拶。床の御軸はご流祖筆の一行「平常心是道」。炭点前、香合の拝見、懐石は略して御菓子をいただき中立に。お家元からはここまでの間に、下火の起こし方が十分でないと炭に火が移らないことや、菓子器の扱い方など、初歩的でありながらも重要な点について具体的にご指導がありました。後入から茶通箱での濃茶点前に。こちらでは袱紗の扱い方について細かなご指導が。
約一時間の休憩を挟んで〈午後の部〉は、はじめに翠鶴先生より御挨拶があり、講習は「通い付き且座」。正客・次客・三客に東・半東・通いの六名様がお席に入ります。通い一人が増えただけでより複雑さが増すのか、戸惑われるところが数箇所あり、これについては終了後にお家元が紛らわしいところ、勘違いしやすい箇所をお教え下さいましたので、ホッとした空気が流れました。
二日目は晴れ時々曇り、気温は三十三℃とかなり蒸し暑い一日。本日〈午前の部〉は「釣り釜にて炭点前・唐物点」。お家元のお話では「唐物点」は本来小間でのお点前ですが、最近は支部などでのお稽古では広間で行うことが多いので、本日はあえて八畳で行うとのこと。正客・次客・三客・四客・お詰に東の六名様で本日も席入りから。釣り釜での炭点前は釜や鎖の扱い方が独特で難しく、宋胡録の香合を拝見して、懐石は略し菓子をいただき中立。お席が清められ、床に花、水指、茶入が据えられ後入、濃茶点前に。唐物茶入を仕服、茶杓共々丁寧に拝見。正客がこれらを戻す際に置く場所について細かな御指導がありました。
お昼の休憩後、〈午後の部〉の講習は〈七事式〉より「一二三」。お家元より講習の意義についてご説明があり、〈七事式〉において「一二三」は六番目でいわば総仕上げの重要な御稽古。ただしこのところ研究会ではあまり行ってこなかったので今回取り上げられたとのこと。本日は八畳のお席にて。点を入れるお客様九名には全国からご参加の各支部長様方が入られましたので緊張感はいよいよ増してゆきます。お家元は十種香札の扱い方、点の打ち方などを詳細に指導され、点の入れ方にも見識が問われことから、点の適否についてもご解説下さり、さらに昔と現行の「一二三」の違いなどについてお話下さいました。講習後の質疑応答も盛んだったことから、有意義な講習であったことが分ります。
三日目は最高気温二十八℃とやや下がったものの曇り時々雨で蒸し暑さはそのまま。〈午前の部〉の講習に先立ち、お家元よりここまでに気付かれたの点についてご指摘が。お道具拝見での手の置き方や、御菓子をいただく際のお辞儀の仕方などについて、御流儀としてのやり方があるので基本的なことを再確認していただきたいとの実に丁寧な御指導でありました。
最終日の〈午前の部〉は「向切 釣り釜にて炭点前・濃茶点前」。二畳中板の小間には竹の自在での釣り釜。釣り釜は広間なら鎖、小間には自在が合うとお教えいただきました。正客・次客・三客・お詰と東の五名様が指名され開始。炭点前では自在の扱い方がかなり難しいであろう感じられ、釜を外した後の自在の置き方についてお家元が御指示されますと参観されている方々から驚きの声があがりました。
〈午後の部〉最後の講習は「濃茶付雪月花」を八畳にて。通常は十二畳半で行われますが、各支部で「雪月花」の稽古をされるようになって、お稽古場が八畳という場合が多々あることから、今回初めて八畳での「雪月花」を試みることに。
八名様が揃って袱紗を出すタイミング、手の位置、着座の場、折据や札を置くところなど、開始早々からかなり緻密な御指導が。時として互いにイキを合わないため間がズレ始めますとすぐに指摘をされ、御茶が出る前に折据を廻し終えるのが原則ながら、ゆっくり廻しすぎて先に御茶が点ってしまうことがあり、これを防ぐため半東は忙しく動かねばならず、また正客が折据を廻し始めるタイミングを正確に見極めることが大切であるとも。その他、席入りの際の足の運び方や、御挨拶の際に間を置かない人が多く、ちょっとした間を置くことが大事で、少し間を置けば互いのイキも合わせやすく、「間を置くことを覚えるのもお稽古です」とのお言葉がとても重く感じられました。
すべての講習を終え、お家元と翠鶴先生よりお一人ずつに「修了証」が手渡されてから、御茶と御菓子をいただきました。皆さん充実した内容だった三日間を振り返られながらのご歓談。やはり常に基本に立ち返りながら御稽古を積み重ねてゆくことの大切さを最後にお教えいただいた今年「皆伝者研究会」であったと思います。
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