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孤峰不白忌

2018年01月4日(木)

孤峰不白忌
十一月四日(日)
ご流祖の遺徳を偲ぶ「孤峰不白忌」。本年は第二百十御遠忌とのこと。今年も十一月四日に江戸千家会館三階大広間にてご法要が営まれ、例年通り大勢様がご参列されました。
午前10時、菩提寺安立寺の御住職様、副住職様がお入りになり、続いてお家元、翠鶴先生、若宗匠、峯雪先生、智大様がご着座。安立寺ご住職様による読経によって大広間が厳粛さ満ちてくる頃、若宗匠が進み出られて御供茶点前を始められます。半東は峯雪先生がお務めになり、若宗匠が点てられた御茶は峯雪先生によりご流祖御像に供えられます。御像には竹三ツ具足に白菊。これも恒例の設え。
続いて若宗匠も御像に拝礼、これにあわせて御参列の方々も拝礼され、やがて安立寺様がご退出になりますと、お家元より参列御礼の御挨拶とともに本日のお席の御案内を頂戴し、今年も恙なく「孤峰忌」のご法要が終了いたしました。
今年もお茶席は三席。
第一席〈広間〉薄茶席は翠鶴先生がお席主を務められ、第二席〈担雪軒〉濃茶席では若宗匠がお席主に。そして第三席は、例年ならば〈不式庵〉での洞庫席ですが、本年は何と〈蓮華庵〉にてお家元がお点前をなされるということで大変に驚いた次第です。
第一席〈広間〉の床は、ご流祖筆の三幅対「凡聖同居」「龍蛇昆雑」、御供茶で用いられた真の台子にご流祖好唐銅皆具といずれも孤峰忌〈広間〉恒例の設え。
茶器は一元斎好の雪輪蒔絵の大棗。
主茶碗はご流祖手造の赤楽で銘「十王」。十王とは冥土で亡者を裁く十人の王のことですが、ここではお茶碗の色目から赤ら顔の閻魔様のことを指しているのではないかと。替茶碗はやや楕円型で深く彫り込まれた十字高台が特徴的な堅手茶碗。
茶杓もご流祖作の銘「木枯らし」。
御菓子はこのお席恒例の「孤峰餅」。昨年より赤坂・塩野製となりましたが、形、風味ともより一層以前のものに近付いたと好評でした。
第一席では翠鶴先生がお点前もされましたので、お客様との会話も弾み、暖かな雰囲気のお席となりました。
第二席〈担雪軒〉は濃茶席。若宗匠がお点前をされ、半東には今年も智大様が入られました。
床の御軸はご流祖筆の一行「唯有一乗法」。法華経方便品の一節で、ご流祖はこの語句を好まれ関防印(引首印)にも用いられた御教示いただきましたが、確かに御軸の右上隅に捺されているのを拝見した覚えがあります。
お花は白玉椿に灯台躑躅の紅葉を大きく。花入は下蕪型の古銅。下部に擂茶と雷紋が施され、香合は織部で甲蓋に弓形の撮みが付いているハジキ香合。
真塗の炉縁にお好みの雪輪地紋の釜は鐶付も雪輪という凝った造形。
桐木地の四方棚に三田青磁の水指は艶やかな色合。
飾茶器は時代の菊蒔絵。研ぎ出し技法で菊紋様が浮かび上がっておりました。
茶入はご流祖箱書きのある瀬戸渋紙手、銘「片時雨」。仕服は竹の節のような図柄の緞子。
お茶碗は佇まいが立派な高麗御本。出袱紗は銀モールで、先年若宗匠がマレーシアで求められたソンケットと呼ばれる浮き織物。昔は王族の衣服に用いられたそうです。
茶杓はご流祖作共筒共箱の銘「志ら菊(白菊)」。建水は瀬戸、蓋置はお好みの大燈紋を象った萩焼。
御茶もお好みの「千代の昔」松華園詰。御菓子も孤峰忌〈担雪軒〉恒例の鶴屋八幡製「紅葉きんとん」。
さて第三席は先述のとおり今年は〈蓮華庵〉でのお席。その理由をお聞きしたところ、9月に開かれたお家元「叙勲祝賀会」にてご出席の方々に贈られたDVD「正午の茶事 炉」が〈蓮華庵〉で撮影されていたことから、今度は是非〈蓮華庵〉でお席をというご要望が多く寄せられたのでとのお話。当日は長年お稽古に通われている方でも〈蓮華庵〉に入れていただいたのは初めてという声が多く、無論当編集部も初めてでしたから感激。お家元のご英断に感謝申し上げた次第です。
また、ちょうど表千家同門会様発行の『同門』11月号に、中村昌生先生(京都工芸繊維大学名誉教授)による「不白の蓮華庵」と題された文章が掲載されており(これは若宗匠より御教示いただきました)、同じく中村先生御執筆の「川上不白の茶室」(平成3年・講談社発行『川上不白の茶』収録)を頼りに初めての〈蓮華庵〉へ伺いました。

席入りして先ず目に飛び込んでくるのが圧倒的な存在感の床柱。先の中村先生の文章によると古図には、
鎌倉建長寺山門古柱也
此柱指渡一尺四寸三分
とあるそうで、つまり直径約43㎝。これは驚きの太さです。また「平面図」にあるように炉は台目切、三畳ながら床の前に幅一尺三寸二分の欅の前板が入り全体は四畳半の広さ。点前畳の境に仕切壁が設けてあるのは道安囲の形式。さらに床と壁を隔てた右側には脇床があり、ここは利休居士をお祀りする所だそうでこの日も森村宜永筆の利休像が掛けられておりました。以上はほぼ中村先生御論考よりの引き写し。

床にはご流祖筆「茶道訓 只」
  只
思知茶道奥儀
可忝常此一字
孤峰(印)(印)
宋胡録の花入にお花は佐賀菊と枯れ蓮という実に渋いお取り合わせ。香合はご流祖の箱書の添った染付の南京クワラ。
寄木の炉縁に釜は大西九代浄元作。「常住」「笑巌窟」と陽刻されている尻張釜でした。
その造形が面白い耳付の水指は備前伊部焼。
茶器は色鮮やかな朱塗りの薬器。
主茶碗は一元斎作箱、三朝焼の雪輪茶碗で、替茶碗は了入作、珠光青磁の呼び継ぎ。継ぎ目の金漆が趣ある景色を作り出しておりました。
茶杓は無銘ながら一元斎宗匠の作。そして御菓子は例年通り半田松華園製の「孤峰」。菓子器は東大寺丸軒瓦を模した銘々皿。
先にご紹介した「川上不白の茶室」の中で〈蓮華庵〉の項を中村昌生先生は「蓮華庵が、先年江戸千家の新しい会館の中に復原されたことは極めて意義ぶかいと思う。」と結ばれており、その理由として蓮華庵が「不白の茶に対する考えが率直に造形された作例」であるからと指摘されております。“ご流祖の遺徳を偲ぶ”孤峰忌において、その蓮華庵で御茶をいただけた有難さをしみじみ感じた今年の孤峰忌でありました。












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