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2017年9月29日 瑞泉寺茶会

2018年04月20日(金)

「第四十七回 瑞泉寺茶会」が九月二十九日に開かれました。本年は七年ぶりに江戸千家が三席お釜を掛けられることになり、お家元はじめ神奈川支部、埼玉支部がお席持をされました。また当日はお茶会に先立ち本堂にてお家元が御供茶奉仕をされ、開山国師や物故会員の御供養をなされました。
鎌倉二階堂紅葉ヶ谷の奥に建つ錦屏山瑞泉寺は、鎌倉時代末の嘉暦二年、夢窓国師を開山として建立され、鎌倉五山に次ぐ関東十刹に列せられた格式のある寺院です。庭園は国の名勝にも指定されており、鎌倉随一の花の寺、紅葉の名所としても知られています。この日も前日の大雨が嘘のような秋晴れのもと、境内には玉紫陽花や白芙蓉が咲き乱れる気持ちの良い日和となりました。
お家元よる御供茶は午前九時三十分より。本堂中央に設えられた点前座の左右にはすでに御参列の方々で一杯に。やがて御住職・大下一真様とともにお家元、若宗匠が御入堂になり、間を置かず御供茶点前に移られます。シャッター音さえ憚られるほどの静寂と緊張感が漂う堂内、お家元は常のように丁寧にお点前を進められ、御茶は御住職様によって御本尊に供えられました。次いでお家元も進み出られて懇ろに合掌をされ、御供茶を終えられました。
ご参列の方々は順次各席へと移動されましたが、お席は次の通り。
南芳軒 家元席
保寿庵 神奈川支部席
広 間 埼玉支部席
客 殿 点心席
お家元席の〈南芳軒〉は四畳の小間。土風炉の鱗灰は前日にお家元が数時間かけて作られたと聞き、お客様方も感激されておりました。
床の御軸は如心斎筆すすきの画讃「明星を 客に招申し 雁の宿」。「雁の宿」は「仮の宿」に通じるため、花入には信楽の旅枕を用いられたとのこと。香合はご当地に因み鎌倉彫の倶利(ぐり)。倶利は屈輪とも書き、蕨に似た渦文状の曲線模様が彫漆で施されているのが特徴。宋代に流行し日本にも伝わりましたが、唐物に比べて鎌倉彫の倶利は柔らかな作なのだそうです。
釜は正面に「松華堂」と陽刻された四方筒釜。ご流祖が箱書に「八幡瀧本所持」と記されていることから、松花堂昭乗好み釜の一つであろうと。木瓜形の水指は艶やかな釉薬が美しい備前尹部焼。茶入は瀬戸の落穂手。仕服は蔓牡丹金襴。啐啄斎の箱書のある呉器茶盌は銘「玉虫」。呉器らしい薄作りで淡灰色の膚に淡く浮き出る赤や青の斑文を虫に見立てのか、全体の微妙な発色を玉虫色と感じたのか、御銘の由来は不明ながら、深い色合と堂々とした佇まいが相俟った見所の多いお茶盌でありました。出袱紗は萬暦緞子や佛様の顔のある金更紗など多様。ご流祖作の茶杓は節下に松葉が一本浮彫された銘「落葉」。
〈南芳軒〉に隣接した〈保寿庵〉は神奈川支部様のお席。床の御軸は豪快な無学和尚筆の一行「何處貫一」(いずこ一を貫く)。老子の言葉ということでこれに合わせて花入はご流祖作の銘「東方朔」を使われました。東方朔は前漢の文人政治家。香合も〈南芳軒〉と同じく鎌倉彫ながらこちらは堆朱風で鯱の画柄。鯱の図が多いのも鎌倉彫の特徴の一つなのだそうです。
さらに茶器、茶盌はいずれも珍しいものが多く驚くばかり。まず木賊蒔絵の中次は堅地屋清兵衛の作。主茶盌は内側に富士が描かれた黒の大樋焼で作者は九代長左衛門。替茶盌は臨済宗建仁寺派第四代管長竹田黙雷禅師の墨蹟「西江水」が書かれた耶馬渓焼。「西江水」とは「揚子江」の意で、これに大徳寺松雲老師が箱書に「吸尽」と命銘されております。この御銘は禅語「一口吸尽西江水」より取られておりますが、利休居士は古渓和尚に参じこの語によって悟りを開いたとも言われています。また他にも珉平焼の一種である淡路島焼など普段拝見できないお茶盌ばかりで、この淡路島焼も撫子が可愛らしく描かれておりました。
本堂近くの〈広間〉が埼玉支部様のお席。斜面に建つお寺ゆえ窓の大きな広間からは見晴らしが良く、落ち着いた雰囲気を醸し出しています。こちらのお道具組も珍しく味わい深いものが多く、楽しく拝見させていただきました。
大きな床の間にはご流祖筆の一行「月知明月秋」。これには対句があって「花知一様春」。自然の摂理を詠みつつ己を知って無心になることの大切さを教える禅語です。時代の尾花秋虫蒔絵の香合も秋らしく渋いながらも見事な作でした。
お会記に古朝日とある水指が朝日焼初代陶作の作と聞き驚きました。初代は慶長年間の人ですから約四百年前こと。時代を経た深い色合が印象的で、主茶盌の高麗御本にも雅趣が感じられ、対して替茶盌は明るい花鳥紋が描かれた呉須赤絵。これもお茶盌としてはあまり拝見しないもので、どっしりとした重さがありました。赤樂のつくね蓋置は了入の作。何気ない作りながら逸品であると多くのお客様が話されておりました。
その他の各お席の詳細については下記の《当日の会記》を御覧いただきたいと存じますが、七年ぶりの瑞泉寺茶会は、珍しく貴重なお道具組とともに、秋らしい清々しさが感じられた三席でありました。

《当日の会記》
第四十七回 瑞泉寺茶会
平成二十九年九月二十九日
〈南芳軒〉
主 江戸千家宗家家元 
川上閑雪
床 如心斎筆 すすき画讃
明星を 客に招申し 雁の宿
花  秋明菊 紀伊上臈杜鵑草
深ミ
ヤマガマズミ山莢蒾
花入 信楽 旅枕
香合 鎌倉彫 倶利
風炉 土
釜  松華堂 筒 松華堂所持
流祖箱
水指 尹部 木瓜形
茶入 瀬戸 落穂手 流祖箱
茶盌 呉器 銘 玉虫 啐啄斎箱
茶杓 流祖 銘 落葉 家元箱
建水 曲
蓋置 竹 一元斎在判
御茶 千代の昔 味岡松華園詰
菓子 菊きんとん 鶴屋八幡製
器 縁高
〈保寿庵〉
主 江戸千家不白会 
神奈川支部
床 無学筆 何處貫一
花  蔓梅擬 花蓼 西洋糸菊
花入 流祖 銘 東方朔 家元箱
香合 鎌倉彫
風炉釜 松地紋 真形釜切合
朝鮮風炉 十三代寒雉造
水指 高取一重口 十四代味楽造
茶器 木賊蒔絵中次
堅地屋清兵衛造
茶盌 大樋 黒 九代長左衛門造
替 建仁寺 四代黙雷禅師
墨蹟 西江水
銘 吸尽 大徳寺松雲老師箱
茶杓 当代作 銘 好日
建水 粉引 擂座
蓋置 染付 青華紋 初代竹泉造
御茶 松の齢 味岡松華園詰
菓子 こぼれ萩 美鈴製
器 銘々皿
〈広間〉
主 江戸千家不白会 
埼玉支部
床 流祖不白筆 月知明月秋
花   矢筈薄 吾亦紅 秋の麒麟草
山芍薬の実 杜鵑草(松風)
水引 桔梗 紀伊上臈杜鵑草
蝦夷透し百合
花入 唐物手付籠
香合 時代 尾花秋虫蒔絵
風炉釜 朝鮮切合  一圭造
先 寄木菊透し 信斎造
棚  好 双鶴棚 信斎造
水指 古朝日
茶器 雁蒔絵 一兆造
茶盌 高麗
替 呉須赤絵 花鳥紋
茶杓 当代作 銘 山路 筒箱共
建水 餌畚 古高取
蓋置 つくね 赤楽 了入造
御茶 好 深雪の白 小山園詰
菓子 茜空 豊島屋製
器 萩 四方
以上
(「孤峰―江戸千家の茶道」平成29年11月号より)

瑞泉寺本堂にて御供茶をされるお家元
〈南芳軒〉の床
〈南芳軒〉お点前をされる若宗匠
〈南芳軒〉
〈保寿庵〉ご挨拶をされる神奈川支部長・霜田宗岱様
神奈川支部席の〈保寿庵〉
埼玉支部席の〈広間〉
お道具組について話される埼玉支部長・塚田宗静様

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