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2018年6月16・17日 重要文化財永富家住宅「あやめ会」家元席持

2018年09月27日(木)
兵庫県たつの市にあります国指定の重要文化財〈永富家住宅〉では、毎年六月に「あやめ会」という大規模なお茶会が開かれておりますが、本年はお家元が十六日、十七日の両日お席持をされました。関西では伝統あるお茶会として知られているこの「あやめ会」においては毎年テーマが設けられており、本年はずばり「江戸の御茶」。当編集部も十六日の土曜日に伺うことができましたので、以下その御報告をいたします。
永富家は龍野藩から在郷家臣という特別待遇を受けていた豪農で、代々のお殿様が立ち寄られるため、武家屋敷のように上段の間や立派な表玄関があります。長屋門から見た主屋と玄関の美しさ、すっきりとした座敷構えなどは日本建築の美しさを表しており、江戸末期地方豪農の生活を知ることのできる重要な建造物として重文指定されたとのことです。その美しい主屋でのお茶会でありますが、元々お茶席を想定されていない建物ですから、お席の設えにはご苦心があったと承りました。
はじめに当日配布のお会記に一部加筆したものを転載いたします。
【あやめ会】会記
平成三十年六月十六日十七日
於 重要文化財 永富家住宅
〈濃茶席〉 
床 伝 行成筆 和泉式部続集切
わがそでは くものいがきに あらねども
うちはへつゆの やどりとぞなる
かのやまの ことやかたると ほととぎす
いそぎまたるゝ としのなつかな
花  大山蓮華
花入 青磁 鯉耳
香合 堆朱 鳥紋
釜  松華堂好 松華堂釜
松華堂所持
風炉 利休好 土 面取
風炉先 八代一元斎不白好
菊桐透 在判
水指 伊賀
茶入 瀬戸 銘 瀧浪 不白箱書付
茶盌 呉器 銘 玉虫 啐啄斎箱
茶杓 如心斎作 銘 一聲 共筒
一燈箱書付 不白箱甲書
建水 毛織
蓋置 流祖不白 竹
炉風炉一双
在銘 九夏雪華飛
御茶 蓮華菴好 千代の昔
味岡松華園詰
菓子 紫陽花きんとん
大阪鶴屋八幡製
器 好 青漆爪紅 雪輪透 縁高
〈薄茶席〉
床 流祖不白筆 四幅對 共箱
雨 露
霜 雪
花  竹島百合 山紫陽花
河原撫子 苅萱 縞葦
花入 不白作 銘 冨士 在銘共箱
山冨千鶴玉
萬方福日照
香合 青貝 杣田
風炉 釜 不白好 真形透木
菊桐地紋 名越弥五郎造
棚  不白好 梨地 米棚
水指 色絵薩摩 砂金袋
茶器 金地渦紋 平棗
守屋松亭造
茶盌 織部 橋ノ図
替 祥瑞
茶杓 不白作 銘 粟津 筒箱共
建水 瀬戸
蓋置 七代蓮々斎手造 赤
寶殿 共箱
御茶 好 深雪の白 山政小山園詰
菓子 おもだか 水
京亀屋伊織製
替 あわゆき 山形ぱんどら製
以上
御一読のとおり水の流れをモチーフとしたお道具組になっておりました。これは未だ入梅中で会の名称も「あやめ会」。さらに永富家住宅が揖保川沿い建つことから選ばれたそうです。
さて当日は快晴に恵まれ、JR竜野駅から実にのんびりした気分のなか揖保川沿いに車が進むとじきに永富家に到着。長屋門からお玄関、広い土間や磨き込まれた立派な梁に驚きつつ寄付に入り、やがて御案内を受け、幅広の縁先廊下を抜け、上段の間を眺めつつ〈濃茶席〉へと到りました。
〈濃茶席〉ではお家元がお点前を務められ、峯雪先生が半東に入られましたが、丁寧に御茶を練られるお家元のお点前と、それを凝視されるお客様方の強い視線がともに印象的でありました。
〈濃茶席〉は八畳間に小間をいくつか繋いだやや変則的な設えに。例年は上段の間の付いた大広間の方が濃茶席になっておりますが、今回はお家元のご意向が運びのお点前ということでしたのでこの形式が採られたそうです。その八畳間の床には行成筆「和泉式部続集切」。〝ここで拝見できるとは来た甲斐があった〟としばし感激、「古筆の美」という言葉以外見付からない御軸であります。
松華堂好・松華堂所持の松華堂釜、利休好の面取土風炉にはお家元ご丹精の鱗灰が積み上げられ、初めて拝見したという方も多く、感嘆の声があがっておりました。
〈薄茶席〉へ移る前に上段の間を拝見。二間の床には当日の箱書が飾られ、御軸はご流祖筆「橋の画讃」〝唯見 緑水流 曽無 黄石公(ただみる りょくすいのながれ かつてなし こうせっこう) 八十六 不白〟。黄石公とは、前漢の祖である劉邦に仕えた軍師・張良に兵法を授けたとされる伝説上の人物ですが、その出会いが橋の袂であった故事が詠まれたものと思われます。
〈薄茶席〉では若宗匠がお点前をされ、半東は智大様が務められました。〈濃茶席〉以上に水のモチーフが強く表れ、また「江戸の御茶」をより感じていただくため、ご流祖の特徴的な作を揃えられたと承りました。
大広間の大きな床にはご流祖筆の四幅対。しかも各々違う号が記されております。「雨 孤峰」「露 蓮華庵」「霜 亭々亭」「雪 風光軒」。お道具組の主題に則しているのは勿論ですが、〝姿形は違っても真理は一つ〟というご流祖の考えが籠められているとのお話に、お客様方も大きく頷かれておりました。大きな床に合わせて、花入も存在感のあるご流祖作の竹一重切「富士」。これほど立派な竹は当然孟宗竹ですが、孟宗竹を御茶に使ったのはおそらくご流祖が最初であろうと。ここにも新しいものを積極的に取り入れようとされたご流祖の姿勢が伺えます。
総梨地の米棚に砂金袋型の献上薩摩の水指という取り合わせは誠に華やか。そして茶器が守屋松亭作の金地渦紋平棗。いつもながら技巧の凄さと美しさに息を呑む名品。しかも蓋を取れば内部に描かれた千鳥の画がまた見事で、ちょうど羽織裏に凝るように、見えないところにまで緻密な仕事を施すのも江戸前の心意気ではないかとのお話でした。
毎年様々な方々が、凝った御趣向で席持ちをされる「あやめ会」において、あえて〝御茶らしい御茶〟を表現しようとされたお家元の意図は、江戸千家の御茶にはあまり馴染みのないお客様方にも十分に伝わったものと思います。それは満足げにお席をあとにされた多くの方々の表情からも確信できました。

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