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2019年11月30日 根津美術館「江戸茶の湯展」記念茶会 お家元添釜

2020年03月17日(火)

ご流祖の生誕三百年を記念して、東京青山の根津美術館様において、十一月十六日より特別展「江戸の茶の湯展」が開催されました。その記念茶会として会期中の十一月三十日(土)、館内庭園にある茶室「弘仁亭」にてお家元が添釜をされました。
当日の「弘仁亭」はお濃茶席。若宗匠がお点前をされ、峯雪先生が半東を務められましたが、まずは当日配布されたお会記を掲載いたします(一部加筆)。
〈会記〉
根津美術館『江戸の茶の湯展』添釜
令和元年十一月三十日
根津美術館〈弘仁亭〉
主 江戸千家宗家蓮華庵
十世家元 川上不白
寄 付
床 不白筆写 銭舜挙 鶏頭図
本 席
床 如心斎筆 且座喫茶
不白外題
不白 二代自得斎宗幸 箱書付
花  加茂本阿弥 満天星
花入 不白 竹一重 銘 冨士 共箱
山冨千鶴玉 萬方福日照
香合 不白好 金獅子 在判
無学和尚箱書付
釜  浄元 不白好 寿釜
炉 縁 宗哲 真
風炉先 不白好 四つ折
棚  不白好 米棚
水指 染付 葡萄棚
茶入 不白手造 赤 大海
不風流處也風流 共箱
茶器 不白好 鶏頭棗 共箱
茶盌 呉器 銘 玉虫
啐啄斎箱書付
袱紗 不白好 金襴
青海波千鳥紋
茶盌 不白作 銘 錦 共筒
建水 毛織
蓋置 七代蓮々斎手造 赤
不白好 寶殿
八代一元斎不白箱書付
御茶 蓮華庵好 千代の昔
味岡松華園詰
菓子 初霜きんとん 鶴屋八幡製
器  当代好 青漆爪紅
雪輪紋透かし
以上
ご一読の通り、特別展記念茶会に相応しく、ご流祖所縁のお道具が揃えられており、多くのお客様方が庭園の見事な紅葉とともに、しっとりと落ち着いたお茶席を楽しまれてゆかれました。
まず、本席の大きな床には如心斎筆の御軸。ご流祖の外題付で、さらに二代自得斎筆の箱書が添っておりますが、これは珍しいものとのこと。
利休七世孫
且座喫茶
如心斎天然(花押)
重厚感のある表装も素晴らしく、お家元より流儀にとって大事な御軸であると承りました。
大きな床に合せて、花入も立派なご流祖作の竹一重で銘は「冨士」。大きいため敷板も別誂えであとうと。御銘の通り大きく存在感がありますが、当然ながら材は孟宗竹。この孟宗竹を茶席に取り入れたのはおそらくご流祖が初めてであろうというお話は、御流儀の方々ならよくご存じですが、この日は他の御流儀の方々が多く席入されましたので、意外な話柄に驚かれる方も多く、こちらに生けられたお花は加茂本阿弥椿に満天星(灯台躑躅)の照葉。香合はご流祖が五十歳の折に初めて作られたお好み道具と言われる金獅子香合。赤楽に黒漆を施し金箔を貼った香合は御宗家初釜で拝見してきましたが、深みのある輝きが独特であります。
以下もご流祖好のお道具が揃いまして、まずお釜は京三条釜座・大西浄元作の寿釜。丸釜で円相に寿の字が陽鋳されており、鐶付は吉祥文様である緑毛亀(蓑亀)。こちらも御初釜ではお馴染みです。米棚には葡萄棚染付の水指と、飾茶器はご存じ塩見小兵衛作の鶏頭棗。水指は埼玉支部のお茶会以来二度目の拝見ですが、やはり素晴らしい作。鶏頭棗共々これぞ名品という感を強く抱きました。
茶入はご流祖手造の赤楽。小振りで扁平の大海茶入の正面には白の化粧掛で〝孤峰〟と花押が記され、共箱には「不風流處也風流(ふりゅうならざるところまたふりゅう)」と書かれておりました。これは禅語で「風流」はフリュウと読むのだそうです。「風流」の意味も今日とは少し違いますが、「不風流のように見えても、そこには何とも言えぬ風流なところがある」という解釈でよいようです。
お茶盌は啐啄斎箱書の呉器で銘「玉虫」。一日使っていると色が変わってくるそうで、なるほど午後に日が傾いてきますと、夕景の中で艶やかな光を放っておりました。出袱紗はお目出度く青海波千鳥紋の金襴。茶杓はご流祖作の銘「錦」。庭園の見事な紅葉に合わせて用いられたと思われます。
最後に特記いたしますが、この日の寄付に掛けられたのはご流祖筆写「銭舜挙 鶏頭図」。六日前の新宮市での記念茶会でも拝見しましたが、今回の特別展ではその原典である銭舜挙筆「鶏頭図」が展示されておりますから、この二点を同時に見られるのはこの一日限りのことであり、この先も滅多なことでは実現しない得難い機会を頂戴いたしました。
お家元のお心遣いに皆様方も驚きとともに感激され、雅趣に富んだお茶席を楽しまれてゆきました。
(「孤峰 江戸千家の茶道」令和二年一月号より)

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