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2019年12月8日 茶筅供養と東京茶道会茶会(十二月)

2020年03月17日(火)

歳末恒例、東京茶道会の「茶筅供養」が十二月八日(日)、東京音羽・護国寺様において開かれ、お家元が御参列になりました。また例年通り当日は十二月の「東京茶道会茶会」も開かれ、今回は若宗匠が〈楓の間〉にてお席主を勤められました。
快晴ながら寒気の強い日和でしたが、終日大勢様がお席にお見えになりました。

茶筅供養

「茶筅供養」は例年通り午前九時三十分より月光殿前庭に立つ〈茶筅塚〉前にて執り行われ、お家元はじめ東京茶道会の各御流儀の宗匠方、そして門人の方々が多数ご参列になりました。
錀の音とともに護国寺の僧侶方がお出ましになり、読経が始まります。やがて僧侶の方が〈茶筅塚〉前にて茶筅のお焚き上げをされ、続いて理事長である小堀宗実様、次いでお家元が茶筅をくべられます。その後は役員の宗匠方、そして各御流儀の関係者の方々が次々に茶筅を焚き上げられ、立ち昇る炎と烟が流れるなか丁寧に塚に手を合わせ、御供養をされてゆきました。こうして今年の「茶筅供養」も大勢様ご参列のもと恙なく終了いたしました。

茶会

若宗匠が今回懸釜をされたのは〈楓の間〉。その名の通り中庭に面した廊下で入席待ちをしておりますと、色鮮やかな紅葉が目に飛び込んでまいります。
お席では毎回最初にお家元が御挨拶を。若宗匠がお点前をされ、峯雪先生が半東をお務めになりました。
床の御軸はご流祖筆「鉢叩きの画讃」。ご流祖による「鉢叩き」を主題とする画讃を、これまでいくつか紹介してまいりましたが、今回の御軸は初めて拝見するもの。
八十二翁 不白
なく子にハ
鬼にしておけ
はちたゝき
以前にも記した通り、「鉢叩き」とは十一月十三日の空也忌から大晦日までの四十八日間、空也堂の僧が瓢簞や鉢、鉦を叩き鳴らしながら洛中洛外を巡り歩き、空也念仏を広める勧進だったものが、江戸期には門付芸となって年末の風物誌となりました。またこの人たちは茶筅の製造販売も生業としていたのは意外なことですが、師走の「茶筅供養」のお席に似合った画讃でありました。
白玉椿と蔓梅擬(つるうめもどき)が生けられた花入はご流祖作の竹一重で銘「夕時雨」。箱書に「建仁寺ノ竹以造之」とありましたが、何故この花入をつかわれたのかは後述。香合の八田円斎作の結び文は華やかな作。こちらには平成から令和へ、今年から来年へ結び繋げる意を籠められておりました。
お釜は歳末故に〝光陰矢の如し〟ということで高木治良兵衛作の矢筈釜。方円棚に水指は一重口の瀬戸染付。見所の多い水指で、図柄は氷地紋に梅が咲く氷裂梅文。さらに口の下には櫛目の掻きおとしがあり、これがアクセントになって全体に落ち着いた印象を与える逸品でありました。炉縁は真塗に大燈紋の蒔絵。風炉先は金銀水引。いずれも一元斎のお好みとお教えいただきました。
さて、方円棚には実は重要な意味が。方円棚とはその名の通り丸柱に方形の板で出来ておりますが、これに三角の蓋置(川瀬竹志作)の組み合わせで〝○△□〟となります。ここで繋がってくるのが著名な仙厓義梵の「○△□図」(出光美術館所蔵)。単純かつ難解な禅画ですが、禅における悟りの境地を示すものと言われております。当日十二月八日の朝まで、禅寺では「臘八大摂心(ろうはちおおぜっしん)」が行われていました。一年で最も厳しい修行終えた雲水の方々へ想いを馳せられた若宗匠の御趣向とお聞きし感動を覚えました。また建仁寺の竹で作られた花入を用いられたのも同じ想いからとのこと。
朱色が鮮やかな瓢型の茶器は大変に珍しい越中城鼻蒔絵(富山県城端(じょうはな)町は古くは城鼻と表記)。江戸時代、加賀藩では加賀蒔絵保護のため藩外へ金銀蒔絵の流失の禁止。そのため城鼻蒔絵では白や朱など各種の色彩を駆使した独特の作品を創出したそうです。この茶器も瓢型の胴に三面の団扇を配し、それぞれに水仙・鷺・貝が描いてある凝った蒔絵でありました。さらに言えば、御軸の鉢叩きの腰には瓢簞が下がっており、こうしたお道具組の妙が自ずから(つまりご説明を聞かずとも)感じられるようになると、お茶席の楽しみが一層深くなるのだろうと感じ入った次第。
主茶盌はご流祖手造の赤楽で銘「比良」。近江八景「比良降雪」よりの御銘で、白釉で山波が描かれておりました。替茶盌は御本立鶴で蓮々斎の箱書が添っております。茶盌はお家元作の銘「木枯し」。菓子は鶴屋八幡製「雪花」。季節感に沿ったお取り合わせでありました。
また三角の蓋置は川瀬竹志作、菓子器の輪花鉢は川瀬忍作、とご兄弟の作品を並べられたところにも若宗匠らしい気配りが感じられました。季節感とともに隅々まで想いの籠もったお道具組を堪能した〈楓の間〉のお席でありました。
(「孤峰 江戸千家の茶道」令和二年一月号より)

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