江戸千家不白会
弘前支部七十周年
「記念茶会」「祝賀会」
十月十八日(日)
十月十八日、不白会弘前支部の創立七十周年を祝う「記念茶会」が弘前市西茂森〈禅林街〉にて開かれ、お家元席をはじめ三席にお釜が懸かりました。当日は好天に恵まれ、青森県内はじめ全国の支部から大勢様がお見えになり、城下町弘前の秋晴の一日を満喫されておりました。また同日午後五時三十分からは、ホテルナクアシティ弘前にて「記念祝賀会」が催され、こちらにも多くの方々がご出席になり、盛大な祝宴となりました。
「記念茶会」が開かれた〈禅林街〉は禅宗(曹洞宗)の寺院ばかり三十三箇寺が集っている地区で、同じ宗派の寺院がこれほど一地域に集中しているのは全国でも珍しい例ではないかと。上寺(うわでら)通りにあるのが長勝寺で弘前藩主津軽家の菩提寺。こちらは二代藩主信枚の弘前城築城とともに一六一〇年に現在地へ移建、その際領内の主だった寺院もこの寺域に集められたようです。
お茶会が開かれたのは赤門をくぐって入る下寺(したでら)通りにある各寺院にて。当日のお席は次のとおりでした。
〈第一席〉家元席 藤先寺
〈第二席〉支部長席 盛雲院
〈第三席〉支部理事席 常源寺
〈点心席〉 宗徳寺
いずれも立派なお寺ばかりでそれぞれのお席も広く設えられており驚かされた次第です。
〈第一席〉家元席は赤門のすぐ横にある藤先寺の「長雲閣」にて。五十五畳もある大広間でのお濃茶席でありました。
最初のお席には弘前市長・葛西憲之様はじめ弘前茶道協会会長・三浦秀春様、そして弘前支部長・帯川宗定様が席入りされ、お家元がお点前をなされました。その後は若宗匠と交互にお点前をなされ、半東は峯雪先生がお務めになりました。
床の御軸は松月老人こと宙宝和尚筆の大きな横一行書「松無古今色(まつにここんのいろなし)」。松の翠は古今変わらずその色を保ち続けるというお目出度い意。有名な禅語だそうでこれに「竹有上下節」「梅自発清香」と続き松竹梅が揃います。大広間の大きな床の間に合った立派な大横物。これまであまり掛ける機会がなかった御軸をようやく使えましたとはお家元よりのお話。
木耳付の唐物籠には翠鶴先生によって十一種のお花が(丘虎の尾照葉 山芍 薬の実 浜菊 桜蓼 草牡丹女郎花 河原撫子 竜胆 薄 紀伊上臈杜鵑など)。亀甲蒔絵に錫縁の香合。
お釜は三条釜座・高木治良兵衛作の真形釜。真塗の米棚には独特の文様のあるオランダ水指。飾茶器は時代の菊蒔絵の棗。茶入は瀬戸で、ご流祖の箱書には「利休市場」と記されており銘は「松花」。本歌の「市場手」茶入が北国の市場で見出されたことに因んでこのお席に使われたとのこと。仕服は宝尽くしに流水紋。
お茶?は箱に「高麗 三嶋手 茶碗」とある平茶?。箱書は佐久間将監実勝、蓋裏にはその旨を記した古筆了仲の極書、さらに外箱には朱書で裏千家十三代円能斎宗匠の箱書があり追銘「山里」とも。手に取ると軽く、三島らしい白象嵌による押型の文様が目をひきました。佐久間将監は徳川家康から三代家光まで仕えた旗本で名古屋城の普請奉行や幕府の作事奉行などを勤めましたが、茶人としても古田織部に師事し、晩年は大徳寺龍光院に寸松庵を建て隠居。愛蔵した『寸松庵色紙』は古筆の名品で〝三色紙〟の一つとして有名です(三色紙とは『寸松庵色紙』『継色紙』『升色紙』)。袱紗は時代の銀モール。あえて柄の変わり目を使っているのが特徴的でずっしりとした重みがありました。
お茶杓はご流祖作の銘「三番叟」。煤竹から作られた黒味の強い色合で、三番叟の鈴の段で用いられる面「黒尉」が黒く彩色されていることからの連想の御銘ではないかと。三番叟は五穀豊穣を寿ぐ舞。お目出度い記念茶会に相応しいお茶杓であります。
蓋置はご流祖好、七代蓮々斎手造の宝殿写。御茶はお家元好「千代の昔」松華園詰。御菓子は地元の老舗・大坂屋製の「紅白きんとん」。
お祝いの茶会らしく万事お目出度いお道具組ながらも、陸奥の秋が深く感じられたお家元席でありました。
〈第二席〉は支部長・帯川宗定様がお席主を務められた薄茶席。盛雲院の大広間の落ち着いた雰囲気のなかで御茶をいただきました。
床の御軸は大徳寺五一二世、十二代管長方谷浩明老師筆「和氣(わきほう)兆豊年(ねんをきざす)」。これは『虚堂録』にある禅語。そして古染付の色合が誠に深い芋頭形の水指や、十代大樋長左衛門作の黒飴二双の主茶?などはお席の雰囲気に合ったゆったりとしたもので、こちらのお席でも秋らしい季節感が十分に伝わってきました。
〈第三席〉は支部理事の皆様が常源寺にてお席主を務められました。
正面の大きな窓から竹林と紅葉の木々が一望できる大広間では、野点仕立の茶箱での点前をお三方が同時に行うという凝った御趣向。半東の方々も含め緊張感を伴うことと思いますが、見事息の合ったお点前が御披露されておりました。干菓子もご当地らしくリンゴと岩木山を象った可愛らしい御菓子で、見晴らしの良いお席で気持ちの良い時間が過ごせました。
その他のお道具組の詳細については以下のお会記をご参照下さい。
【当日の会記】
〈第二席〉(盛雲院)
主 支部長席
床 十二代浩明管長筆
和氣兆豊年
花入 臑当宗全 鱗司
香合 蔦蒔絵
風炉釜 不白好菊桐透木
風炉先 一元斎好
棚 祥峰棚
水指 古染付芋頭 馮高領
茶器 雪華平棗 当代箱
茶碗 黒飴二双
十代大樋長左衛門
替 赤
茶杓 老松 流祖
建水 高取 味楽造
蓋置 雪輪紋
御茶 松の齢 松華園詰
御菓子 くりきんとん 旭松堂製
器 青華白磁寿文
以上
〈第三席〉(常源寺)
主 支部理事席
床 家元筆
喫茶去
花入 籠色々
香合 錆塗 青貝虫 近左
茶箱 菊桐蒔絵 輪島塗
棗 茶筅筒共
茶? 観世水扇面 清閑寺
振り出し茶巾筒共
茶杓 象牙 芋茶杓
仕服 利休間道
御茶 深雪の白
御菓子 干菓子
器 桜皮細工
以上
「七十周年記念祝賀会」はお茶会後の夕刻五時三十分より、弘前駅前にありますホテルナクアシティ弘前の三階〈プレミアホール〉にて開かれました。二十六卓ものテーブルが並ぶ大ホール。ここに一杯のお客様方による大きな拍手の中、お家元、翠鶴先生、若宗匠、峯雪先生、そしてご来賓の方々がご入場、着席をされて開宴となりました。
はじめに大高幸雪様による「開会のことば」、続いての「弘前支部長挨拶」では帯川宗定支部長がご登壇になり、ご来賓の方々や全国の支部よりご出席の皆様に感謝の言葉を申し述べられ、七十年の歴史を振り返りつつ「今後これまで以上の御指導、御支援を賜りますようお願い申し上げます」と述べられて御挨拶を締め括られました。
公務のため祝賀会にはご出席いただけなかった弘前市長・葛西憲之様よりのメッセージが代読され、衆議院議員・木村太郎様、弘前茶道協会会長・三浦秀春様よりそれぞれ御祝辞を頂戴し、次いでお家元が御挨拶のためご登壇なされました。
創立七十周年ということは終戦直後の混乱期に発会したことになり、お家元はその発会式には出席されなかったそうですですが、その後はお若い頃から宗鶴師にお供してたびたび弘前に参られ研究会などに参加されたとのことで、その折々の思い出などをお話し下さり、この七十年間、弘前支部を見守り育てていただいた地元弘前の方々に対し深く感謝の意を述べられました。
祝電のご紹介後、舞台が改められ祝舞の御披露となり、本誌連載でお馴染み、上田支部長・小宮山宗輝様による舞踊「青海波」が披露されました。「青海波」には穏やかな波が広がる静かな海のような暮らしがいつまでも続くようにとの意味が込められており、誠に記念祝賀会には相応しい演目。格調高い踊りを拝見できたのは嬉しい限りでありました。
祝舞が終わりますと乾杯となり、本日は若宗匠が御発声に。若宗匠もこの七十年という長い年月に思いを馳せられ、弘前の皆様への御礼の言葉とともに、さらなる支部の発展、そしてご出席の皆様方の御健勝を祈念され「おめでとうございます」との御発声で盃をあげられますと、全員がこれに唱和して乾杯、創立七十周年をお祝いいたしました。
ここからは御食事、御歓談の時間に移りましたが、御食事は地元青森産の食材を使用したフランス料理。また各テーブルでは盃のやりとりが盛んに行われるなど大いに盛り上がるなか、アトラクションの時間となり、津軽三味線「清友会」の皆様がステージ上に。会主である五十嵐清勇様は演奏だけでなく伝統芸能伝承師として活躍されており、有名な「じょんから節」をはじめ津軽ならでは曲を四曲ほど御披露いただきましたが、五名様による熱の入った演奏に全国の支部からお集まりの皆さんから大喝采が起きておりました。
楽しい祝宴は約三時間に及びましたが、最後は中川宗信様よりの閉会のことばで無事お開きに。どこまでも親しみやすさが感じられた「記念祝賀会」でありました。
第四十九回 不白敬和会
――十月三十日(土)
今年で四十九回目となる「不白敬和会」のお茶会が、十月三十日の土曜日に音羽の護国寺で開かれ、お家元が〈月窓軒〉にてお席を持たれました。本年の「不白敬和会」もお席は次の三席。
〈月窓軒〉 お家元
〈楓の間〉 中村宗正様
〈艸雷庵〉(立礼席) 小川宗洋様
終日曇り空で少々肌寒い一日でしたが、各席とも多くのお客様で賑わいました。
〈月窓軒〉では若宗匠がお点前をされ、半東には峯雪先生がお入りなりました。
当日三席のお会記を以下に記載いたしますので、詳しくはそちらを御覧いただくとして、ここでは主立ったお道具について記します。
床の御軸はご流祖筆の木枯の画讃「凩やちょろ??ひびく瀧の音」。洒脱でこの季節になると拝見したくなる御軸。木耳籠には翠鶴先生が名残のお花十三種を活けられましたが、これにはお客様方も大いに驚かれておりました。また香合も秋らしく柿の香合でしたが、あえて蔕のところを下に置くのが正しいという変わった造型が興味深く、多くの方々が手に取られておりました。
樂家六代左入作「梔子水指」は如心斎好。色、形ともに独特の味わいがあるもの。茶入は黒地に朱で菊が描かれており、三代不白斎在判という珍しい棗。
主茶?はご流祖手造の赤楽で銘「浦の苫屋」。替茶?はこちらも珍しい砂手御本。ふたつ並びますと不思議と温かみが感じられます。茶杓もご流祖作の銘「落葉」。まさしくこの時季ならではのお茶杓。厚く力強いご流祖らしい作。
急に寒くなったといえ東京の紅葉はまだ先のことと思わせるこの日の護国寺境内でしたが、少し先に深まりゆく秋を感じさせていただいた〈月窓軒〉のお席でありました。
【当日の会記】
護国寺〈月窓軒〉
主 川上閑雪
床 流祖 木枯之画讃
花 高野(コウヤ)箒(ボウキ) 虎の尾照葉 伊勢菊 芍薬 山竜胆 河原撫子 女郎花 深山竜胆 吾亦紅 更科升麻 薄 野紺菊 杜鵑草
花入 かご 木耳
香合 柿
風炉釜 流祖好 菊 桐紋透木
道也作
風炉先 一元斎好 菊 桐
棚 大板中置
水指 如心斎好 くちなし 左入造
茶器 菊之絵棗 三代在判
茶碗 不白手作り 赤
うらのとまや
替 砂手御本
茶杓 流祖作 銘 落葉
建水 瀬戸
蓋置 雪輪
御茶 松の齢 松華園詰
菓子 鶴屋八幡製
器 縁高
以上
〈楓の間〉
主 中村宗正
床 米寿不白画賛
むさしのや草の空よりけふの月
脇 柿蒔絵硯箱
花入 山篭 宗清作
香合 鶉(ウズラ) 瓢 土肥二三箱
風炉 雲龍土風炉 大板にて
了全作
釜 雲龍釜 兎鐶
風炉先 遠州好 桑
水指 伊賀筒形
茶器 木地つゆ草蒔絵
銘むさしの
茶碗 黄伊羅保 銘 願ふ雪
了々斎箱
替 信楽秋草文宗名子切型
茶杓 不識軒宗什作 筒宗寿
替筒瓢阿
蓋置 赤楽弘入作 銘 源氏まど
建水 高取
御茶 不老春 平野園詰
菓子 菊練切り ときわ木製
器 雲鶴
替 現川焼
以上
〈艸雷庵〉(立礼席)
主 小川宗洋
寄付
床 彩飾写本
ラテン語 時祷書 十五世紀
本席
床 短冊 松花堂筆 歌仙 清原元輔
秋ののはぎのにしきをふるさとに
しかのねながらうつしてし哉
茶箱 盆点
花入 朝鮮唐津
香合 ストーン フランス土産
銀瓶 鹿ともみじ紋 沢田宗味造
瓶掛 鉄六角
盆 象谷塗
茶器 紅木 遠州好 赤地友哉造
替 時代千鳥と波蒔絵
茶碗 粉引
替 絵唐津片口
他三点
茶杓 紅木 宗圭 好
七宝茶巾筒
菊の絵茶筌筒
ひさご振出し
建水 塗曲
御茶 初音 奥西緑芳園詰
菓子 あがり栗羊羹 松華堂製
器 仁清写 七宝透し 永寿造
軌山写福の字 米禽造
以上