トップページ > 2018年11月25日 第十九回 弥生会

2018年11月25日 第十九回 弥生会

2019年01月18日(金)
初心者の方々にも気軽にお茶会を親しんでいただこうという「弥生会」も回を重ねて十九回目に。十一月二十五日の日曜日、九時半より江戸千家会館にて開かれました。今回もお茶席二席と点心席が設けられ、快晴の秋空の下、早くから多くの方々がお出ましになり、各席とも大勢様で終日賑わっておりました。
いつもは二席とも薄茶席の「弥生会」ですが、今回若宗匠がお席主を勤められた第一席〈担雪軒〉は濃茶席となりました。また、お点前を始める前にあえて時間を取り、若宗匠より御軸のお話や、お道具組の概略について御説明があったのも異例なことでしたが、たしかに初心者の方々にとっては、事前にある程度知識を得ていた方が理解も深まるように思えます。
「弥生会」が皆さんの勉強の場にもなるようにとの若宗匠の強い御意志が伝わってくる時間でした。
床の御軸はその筆勢が素晴らしい江月和尚筆の一行「寒松一色千年」。寒い冬でも色を変えぬ松の目出度さを讃えつつ、心変わりしない精神の気高さを謳った濃茶席に相応しい字句でありました。但し本来は最後に「別」が付いて〝寒松一色千年別(かんしょういっしきせんねんべつなり)〟となり〝野老拈花萬國春(やろうはなをねんずばんこくのはる)〟と続くのが『臨済録』にある禅語なのだそうです。
また江月和尚は津田宗及の息子にして孤篷庵の開山であること。そして父である津田宗及とはどのような茶人であったかを簡潔でしかも分かりやすく御説明になりました。さらにこの御軸は表装も見事で、天地が渋い色目の緑、中廻しが華やかな小袖裂で上が鳳凰、下は紅葉という凝った作になっておりました。
一元斎在判の竹一重切にお花は白玉椿に灯台躑躅(ドウダンツツジ)の照葉。香合は柿に見立てた宋胡録(スンコロク)。通常のお茶会ではあまり解説されない宋胡録の起こりにまで言及されたのもこの日ならではのこと。日頃あやふやな知識でモノを書いている当方、大変勉強になりました。
釜は大西浄清作、松原地紋の撫肩釜。炉縁は雪輪雪華紋蒔絵。高麗卓にはご流祖好、辻焼の水指と豊平翠香作、吹寄蒔絵棗。末広型の水指には様々な丸紋が染付られておりましたが、その上品な発色が好ましく、飾茶器も秋草などが吹き寄せられた図が季節感に合った美しさを湛えておりました。
茶入は渋紙手、ご流祖の箱書には銘「片時雨」と。仕覆は宝尽くし図の金襴。
お茶盌は箱書に金字形で「薄紅葉」とある(但し筆者は不明)高麗柔らか手。柔らか手らしいねっとり感はありますが、あまり白色釉は強くなく、むしろどっしりした安定感があるので、薄作りながら濃茶席には好適なお茶盌のように感じられました。袱紗は金襴。実は以前若宗匠がマレーシアで買い求められたソルケットという布を転用されたとのこと。
茶杓はお家元作の銘「龍田山」。御銘は紅葉の名所、こちらからも晩秋のお茶席らしさが伝わってまいります。蓋置は宗鶴師手造の赤樂の千切。御茶はお好みの「千代の昔」。御菓子は赤坂塩野製「秋の帷(とばり)」。
第二席〈広間〉では川上宗悦様がお席主を勤められました。
今回はお家元の米寿を祝し、万事お目出度いお道具組をされたとのことで、まずは床の御軸が大亀老師筆の一行「萬歳綠毛亀」。まさしく長寿を祝う語句であります。同じく花入の銘が「松」、萩焼の亀の香合、お釜が長寿釜、そしてご流祖好の米棚と、お席主の御趣
旨に沿ったお道具揃いになっておりました。
永樂保全作の花入は青々とした若松を象った瑞々しい作。大きく立派な亀の香合は田原陶兵衛作。またお会記に〝大亀御老師上寿記念〟と小書された長寿釜は一ノ瀬宗辰作でしたが、上寿とは百歳のことなのだそうです。正面に「長寿」、向正面に御老師の花押が陽鋳され、胴には二羽の鶴が描かれた誠に見事なお釜でした。さらに三種の金(金・青金・赤金)が使われたという黒光琳松高蒔絵の炉縁に、梨地に截金で菊を表現した大棗がいずれも豪華な作で、お客様方の目を惹いておりました。
主茶盌は御本呉器。見込みが深く高い撥高台が特徴的。その端正なフォルムが呉器らしい佇まいを見せておりました。一方、替茶盌は鮮やかな紫交趾。扇面に松竹梅や牡丹が描かれた永樂即全の作。
祝意に満ちたお席の締め括りは茶杓で銘「鴛」。二本一双で「鴛鴦」となるお茶杓ということで、お家元と翠鶴先生の御長寿を祈念されたとお聞きしました。また、「鴦」の茶杓や共筒共箱も飾って下さいましたが、作者は加藤陶寿という初めて伺う名前の方。岐阜藩・金森宗和の流れを汲む江戸初期の茶人だそうで、どちらも胡麻竹の美しいお茶杓でした。丈もやや長いことから、江戸初期の茶杓の寸法などについて、お客様方との会話も弾んでゆきました。
とにかく見所の多いお道具組には驚くことばかり。詳細は文末の〈会記〉でご確認いただくとして、こちらのお席でも多くの知識を吸収でき、また拝見の時間をたっぷり取って下さったのも有難い御配慮でありました。
〈会記〉
主 川上宗悦
床 大亀御老師
萬歳綠毛亀
花  令法の照葉 小菊
花入 銘 松 保全造
香合 亀 陶兵衛造
釜  大亀御老師上寿記念
長寿釜 宗辰造
風炉先 藤種 清満作
棚  不白好 米棚
炉縁 輪島 黒光琳松高蒔絵
拓也作
水指 鹿背 豊斎造
茶器 大棗 菊 正春作
茶盌 御本呉器
替 交趾 即全造
富士山 貞光造
茶杓 銘 鴛 時代 陶寿作
建水 菊彫 新定造
蓋置 銘 老松の絵 香斎造
御茶 深雪の白 小山園詰
菓子 木枯 鶴屋八幡製
器 福寿 道八造
陶兵衛造
以上
ようやく肌寒さが感じられるようになった晩秋の一日。どちらのお席でも「弥生会」らしい御趣向を堪能させていただきました。また次の第二十回に向けて、「弥生会」も新たな段階へ進んでゆくようにも感じながらこの日の江戸千家会館をあとにいたしました。

1
2
3
4
5
6
7
8


  |  

▲このページのトップへ戻る