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2019年1月10日~ 宗家御初釜

2019年03月31日(日)
例年通り今年も一月十日より御宗家では初釜がおこなわれ、連日大勢様がお見えになったとのこと。編集部も十三日(日)にお招きを受け弥生町へ参上。しかも本年は午前と午後の長時間取材ができるよう御配慮をいただきましたことに先ずは感謝申し上げます。
東京は連日快晴続き。当日は降雪の予報もありましたが、実際には見事に晴れ上がりましたが、より寒さの厳しい一日でございました。
午前十時、江戸千家会館に伺いますと、本号「茶の湯日和」にも書かれてありますように、今年は熊倉功夫先生がお見えになりましたので早速に御挨拶。同じく本誌に「雪月花まわり舞台」を連載されている村上湛先生ともご一緒できましたので、誠に佳き初釜スタートとなりました。
取材準備のため、皆様より一足先に〈花月楼〉へ。敷松葉と青竹の美しい露地はいつもながら気持ち良く、清新な心持ちでお席入いたします。まずはご流祖の寿像に手を合わせ新年の御挨拶。そのすぐ横にはご流祖筆「宝舟の画讃」と、ご流祖作の赤樂嶋臺写が飾られております。正面の床の間へと移りますと、御軸はご流祖筆の双幅「千年丹頂鶴」「萬年綠毛亀」、立派な鏡餅の右にはご流祖好の金獅子香合、間の柱には大きな海老のお飾りが掛けられ、その前には如心斎作嶋台茶盌一対と無學宗衍筆の由来書。左手の脇床には見事な松に葉牡丹と色鮮やかな南天がたっぷりと入り、紅白の玉椿が生けられた青竹からは結び柳が大きく枝垂れ、今年も竹台子から鏡餅、嶋臺茶盌のあたりにまで長く届いているのが実に美しく、またお目出度く感じられます。注連縄飾りの竹台子には朱桶の水指とご流祖好の菊桐文の皆具。お釜は浄元作の大きな亀の鐶付の寿釜と炉縁は新春に相応しい鶴の蒔絵。さらにお点前に用いられるお茶盌は如心斎写了入作の嶋臺、阿古陀形の大きな茶入には金襴に宝尽くしの仕服、そしてお茶杓は一元斎宗匠作の銘「福寿草」。
いずれも御初釜〈花月楼〉吉例のお道具組でございます。
ご用意も調い、寄付よりお客様方が続々とお席入。この日、正客には東大寺長老・上野道善猊下、次客に速水流御家元速水宗樂様、三客に織部流扶桑派御家元尾崎米栢様がお入りになりました。
お客様が座に着かれますとお家元、若宗匠、峯雪先生、智大様が進み出られて鄭重に新年の御挨拶を申し述べられました。次いでお家元が点前座に着かれてお点前をなされましたが、今年は智大様が半東を務められ、大きな高坏にはこれも〈花月楼〉吉例の御菓子で銘は「蓬莱山」。五色餡が華やかな末富製の御饅頭です。嶋臺茶盌に実に丁寧に御茶を練られるお家元のお点前をじっくりと拝見できますのも初釜ならではの有難さ。お招きに感謝するばかりです。
お濃茶を頂戴いたしますと、お客様方の緊張感も少し解れますので、お家元との会話も弾んで参ります。吉例のお道具組のこと、新春の諸行事のこと、さらに如心斎作嶋台茶盌に関するお尋ねや、智大様の大学生活などについて笑顔でお話になっておられました。
やがて御案内を頂戴し、三階〈広間〉の点心席へ。こちらでは若宗匠が皆様をお出迎えされました。御膳は今年も東京吉兆調進。ご流祖好松竹梅の朱塗の引盃に若宗匠が御酒をお勧めになり、「おめでとうございます」と盃をあげて新年をお祝いいたしました。なお掲載写真の通り点心席では今年から椅子席を導入されました。誠に有意義な試みかと思いますし、正直申しますと正座が不慣れな当方、内心どれほど嬉しかったことか。いつにも増して落ち着いて御酒も御膳も美味しく頂戴し、楽しい時間が過ごせました。
点心席恒例の福引では、まず〈禄〉札の方にお家元筆「暁雲紅」が贈られ、次に〈福〉札を引かれた方にはお家元筆の一行「萬物生光輝」が贈られましたが、これは今年の御勅題「光」に因んだ語句ではないかと。さらに特筆すべきはこの一行にお家元が〝米寿不白〟と記されたこと。若宗匠も初めて御覧になったと驚かれたくらいですので、記念すべき書を引き当てられたお客様は大変に感激されておりました。
続いて二階〈担雪軒〉へ移りますと翠鶴先生が笑顔で御挨拶下さいました。こちらでは峯雪先生がお点前を務められ、また途中からは若宗匠も入られてお道具組などについて詳しく御解説下さいました。
床の御軸は如心斎宗匠の筆、
魚之画覚々
是モ又ハシノヒレ
八百 とせの
むかし 薫るや
梅の花
青竹の花入にはつくばねと白玉椿。香合は京焼らしい色鮮やかな寿帯鳥。寿帯鳥とは尾長鳥のことで、「梅花に寿帯鳥」は古来より多くの絵師に好まれたモチーフですので、御軸に合った香合でありました。
重厚な石見芦屋の釜に、炉縁は黒柿で面取りした箇所にのみ青海波の金蒔絵が施された凝った作。総梨地の米棚には砂金袋型の色絵薩摩の水指と茶器は住吉蒔絵の棗。
主茶盌は共箱に「唐土ヲ以造」とあるご流祖手造の赤樂。この季節に平茶盌を使われたのは御銘が「梅」であるためで、無論こちらも御軸にあわせた御趣向でありました。替茶盌は黒織部。沓型茶盌の範疇に入るようですが、ある種モダンな図柄と造形を楽しく拝見。また数茶盌もお正月らしいお目出度い画題のものや、干支に因んだものなど、多種多様なお茶盌を揃えて下さいましたので、御茶を頂いてからは席中で焼き物噺に花が咲きました。
お茶杓もご流祖の作で銘「布袋」。節下のふっくらした曲線を布袋様のお腹に見立てた御銘ではないかと。御菓子は〈担雪軒〉恒例、お好みの鶴屋八幡製「紅白きんとん」。
御流儀の確固たる習わしが床の飾り付けやお道具組などに伝わっている御初釜。その変わらぬ風情に接することで、今年も無事新たな春を迎えられたと実感できるのが有難く、御宗家の皆様に心より御礼を申し上げて弥生町を辞去した今年の御初釜でありました。

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