トップページ > 第十五回 弥生会

第十五回 弥生会

2016年07月12日(火)

第十五回 弥生会
五月二十九日(日)
於 江戸千家会館
初心者の方でも気軽に親しめるお茶会をとの発意から始まった「弥生会」も回を重ねて十五回目に。
五月二十九日(日)、江戸千家会館にて開かれた今回も、お茶席二席と点心席がご用意されており、第一席〈担雪軒〉では翠鶴先生が、第二席〈広間〉では末高宗泰様がそれぞれお席主を務められました。
快晴のこの日は梅雨入り前の急速に暑さが増した日和。朝早くから大勢様がお見えになりましたが、お若い方、男性の方、そして洋装の方が多かったのもいかにも「弥生会」らしく、各席とも午後のお席まで多くのお客様で賑わった一日でした。
〈担雪軒〉では翠鶴先生と若宗匠がお点前をされ、半東を峯雪先生がお務めに。
床の御軸はご流祖筆の画讃「田(た)毎(ごと)の月」。
名に照(てる)や田ごとにくばる水の月
大胆な筆遣いの構図と散らし書きがお洒落でデザイン性が感じられ、また最初と最後の文字を合わせると「名月」になるという実に凝った画讃でありました。蛇足ながら「田毎の月」とは小さな田んぼ一枚々々に月が映る瑞穂の国ならではの光景。古来より多くの文人、画人に好まれておりますが、特に長野県姨捨の棚田は有名で、歌川広重にも「信州更科田毎之月」という画があるとのこと。なお稲穂が稔っていると月は映りませんから、田植えが終わったばかりの時期が「田毎の月」にはちょうど良く、五月のお席にはピッタリの御軸でありました。またお道具組も田植えの季節から水のイメージで揃えられたと承りました。
花入は時代の唐物籠。こちらには翠鶴先生によって山法師、姫百合、瑠璃虎の尾が生けられましたが、一本の山法師を巧みにアレンジされているところにお客様方も驚かれておりました。また香合も水に因んで青貝で蟹が象嵌された唐物香合。
釜も水から橋の連想で切合欄干風炉。こちらは鬼面鐶付で先代治良兵衛の作。棚はお家元好の方円棚。但しお好みとはいえまだ一つしか作られておらず、そのため初めて拝見される方が多く、最も御質問が多かったお道具でした。桐木地で色合の深い朱塗の丸柱が落ち着いた雰囲気を醸し出します。
水指は山水画の染付。繊細な薄作りに柳の蒔絵が施された茶器は守屋松亭全盛期の作品とのこと。
主茶?は見込みの目跡が大きく印象的な高麗斗々屋で銘「岩清水」。形が平茶?のようですからいわゆる平斗々屋かと。替茶?は鵜飼の様子が描かれた色絵薩摩。鵜飼の画がとても楽しげなお茶?。長良川の鵜飼も五月半ばから始まっており、まさにこの季節ならではのもの。
茶杓はご流祖作の銘「粟津」。もちろん琵琶湖のほとり近江八景「粟津晴嵐」よりの御銘。御菓子は鶴屋八幡製「緑」。
御軸から始まる「水」に縁あるお道具組は初心者の方々にもとても分かりやすく、「弥生会」に相応しい〈担雪軒〉のお席でありました。
三階〈広間〉では末高宗泰様が席主をお務めに。少々蒸し暑かったこの日、寄付との間に簾を掛けられたのも涼しげでありました。
お道具組の詳細につきましては、以下に記載しますお会記をご参照いただくとして、まず床の御軸が大綱和尚筆の短冊というのが珍しく、また中村星山作、住吉蒔絵の割香合も初めて拝見する形のもの。またご流祖好みの矢筈爪紅の長板に置かれた十六代永樂即全作の青交趾の平水指は初夏らしく、また目の覚めるような色彩で、お席全体が引き締まる想いがいたしました。
甲蓋に大亀老師が「寿」と金で書かれている茶器は稲尾誠中斎作。色、形ともシンプルながら磨き上げられたような美しさのある茶器でしたが、こちらはお家元の叙勲へのお祝いの意を込めて選ばれたとのこと。
その他にも、これまであまり拝見してこなかった作者による逸品が揃っており、得難い経験ができた〈広間〉のお席でありました。

〈広間〉会記
主 江戸千家 末高宗泰
床 大綱筆 名所の松
ことの葉の種や植えけん吹く風の
聲おもしろき 若の浦松
黄梅院 大玄極
花  鉄線 木葉随菜 虎の尾
   下野 峠蕗
花入 唐物写手付籠 竹宝斎
香合 割香合 住吉蒔絵 星山
風炉 砂張六角 鬼面 旺光
釜  松地紋鬼面切合 宗康
先 一元斎好 菊桐
棚  不白好 長板 矢筈爪紅
水指 青交趾 平 十六代即全
茶器 大亀老師 寿 誠中斎
茶碗 御本 銘 山彦
替 祥瑞写沓形
茶杓 当代家元作 銘 青葉 筒箱共
建水 平戸焼 青海波 嘉助
蓋置 花鳥盃台形 松谷
御茶 深雪の白 小山園詰
菓子 初蛍 塩野製
器 雪月花 徳泉
以上









  |  

▲このページのトップへ戻る