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2019年5月26日 第二十回 弥生会

2019年08月14日(水)
初心者の方々にも気軽にお茶会に親しんでいただこうという御発意から始まった「弥生会」も数えて二十回目となり、五月二十六日の日曜日、九時半より江戸千家会館において催されました。
今回もお茶席二席と点心席が設けられましたが、第二十回記念ということで〈担雪軒〉ではお家元がお席主をお務めになりましたので、いつにもまして朝早くから大勢様がお出ましになりました。
この日は、五月としては異例な最高気温33℃という真夏日で、朝から陽差しのつよい一日でありましたが、様々なご工夫やご趣向が楽しめ、二席とも終日賑わっておりました。
さて、前回の「弥生会」では第一席〈担雪軒〉が濃茶席になりましたが、今回もこれを踏襲され、お点前はお家元と若宗匠がお務めに。半東には智大様様が入られ、本格的な濃茶席となりました。親しみやすさとともに、良き体験と学びのできるお茶会という性格がより強くなったと感じられます。
その〈担雪軒〉、床の御軸は筆勢が素晴らしい大徳寺第一七〇世・清巌宗渭筆の一行
山是山水是水
お家元は「少し(時季的に)早いかなと思いましたが、この暑さですから」とお話になりましたが、まさしく蒸し暑いこの日に豪快な筆致の御軸が清涼感を漂わせておりました。『雲門広録』などにある禅語で、本来は奥深い意味を含んでおりますが、この日はむしろ「山」「水」のモチーフが感じてもらえるようにと掛けられたものと思われます。
古銅累座の花入に、お花は大山蓮華と魁あやめというお取り合わせにも、濃茶席らしさとともに爽やかさが感じられました。香合は錫縁の亀甲花菱蒔絵。こちらと双鶴棚を合わせて〝鶴亀〟になるという御趣向は、第二十回記念の祝意を込められたものと拝察。
風炉釜は真形切合欄干風炉で先々代高木治良兵衛の作。双鶴棚には艶やかな高取の水指、飾茶器は松亭作「君が代蒔絵」の棗。波濤に巌が立体的に描かれており、その美しく精緻な表現力に、息を呑むような想いで見入ってしまいました。
茶入はご流祖作、銘「あけぼの」。共箱には伊賀とあり、伊賀焼らしい明るい地に正面の濃い茶のなだれが印象的です。仕覆は大きな鳳凰紋のある金襴。
お茶碗は御本半使。こちらはお家元にとって大変想い入れのあるお茶盌だと承りました。三十歳のころ初めて出稽古に赴かれた古美術商のご主人に勧められ、とても気に入られて買い求められたそうですが、たぶん初めて御自分で求められたお茶盌ではないかと。初めて伺ったお話でしたが、皆さんも真剣に聴き入っておられました。
内箱が曲物なのも面白く、蓋の甲には「朝鮮焼」の三文字。蓋裏に貼ってあるのは古筆了信の極書で、「朝鮮焼之文字」は「小堀和泉守政峯」の書であると琴山印とともに書かれておりました。外箱にも筆者不明ながら「半使 茶碗 朝鮮窯」とあり、やや薄作りながら直線的なフォルムと渋い色合、そして口縁部の反りと釉の具合などが実に独特。すっきりとした感覚のお茶盌でありました。なお前にも記したように思いますが、半使(判司・半洲)とは朝鮮使節団付の通訳(通辞)のこと。この手の茶碗を持参していたことに由来しているそうですが、作風や形姿には種々あるそうです。
出袱紗は重みのあるモール。時代を経た落ち着いた美しさを見せており、表裏の模様が違う一種の片身替わり風になっているあまり拝見したことがないものでした。
茶杓はご流祖作の銘「三国一」。ご流祖作としては珍しく細身で薄く、節下が長いのも特徴的とのこと。染付の千切の蓋置。御茶はお好みの「千代の昔」。御菓子は五月らしく「若葉」で鶴屋八幡製。
薄茶席の第二席〈広間〉では神奈川支部支部長・後藤幸雪様がお席主を勤められました。
先述の通り真夏のような気候でしたので、〈広間〉は襖が取り払われ、御簾が下げられて夏のお茶席のような涼しげな風情に。何分にも気温33℃ですから有難い御配慮でありました。
〈広間〉でも「弥生会」が勉強の場でもあることから、あえてわかりやすく簡潔なお道具組にされたと承りましたが、その分かりやすさの中にも見どころの多いお道具組に感服したお席でありました。
まずは御軸が極めてユニークで、ご流祖筆「鶴の画讃」
はしは茶杓 あしは火箸の
かたちにて 爐の塵拂ふ
鶴乃羽箒
お目出度さとともに、鶴を茶道具に見立てた御趣向。その機知に富んだところはご流祖らしい感覚ではないかと思います。第二十回記念の「弥生会」に相応しい御軸でありました。(御軸について当日小宮山宗輝様に御教示いただきました。御礼を申し上げます。)
花入はご流祖好の猿蓑籠で先代瓢阿作。こちらには延齢草、京鹿の子、 苧環、七段花、矢筈薄、キンケイなどがたっぷりと。一見堆朱かと思われた香合は鎌倉彫。荒磯に鯱の図が緻密に彫られている逸品でした。
風炉釜もご流祖好の真形透木風炉。風炉先が神代杉の風合いを残した珍しいものでしたから、多くの方々からお尋ねがありました。
真塗の米棚には末広型の水指、華やかな大燈紋が散らされた辻焼で、蓋裏にはお家元の在判。この水指と白磁の菓子鉢の鮮やかな白地が、お席に涼やかさを運んでくれていました。
茶器は美しい雪華蒔絵の施されたやや大きめの平棗。お席主の後藤様にはとても愛着のある棗とのこと。蓋裏に「閑雪」の名と花押がありましたが、あまり拝見したことがない花押でしたので、お家元なのか、あるいは一元斎宗匠ではないのか、とお客様方から様々な御意見が出て大いに盛り上がりました。最終的に若宗匠、そしてお家元御自身が御覧になり、お家元が家元襲名前に記されていた花押であることが判明した次第。
主茶盌は当代豊斎作、朝日焼の紅鹿背。若宗匠による箱書が添っており御銘は「いろどり」。薄い青味の地に赤茶色が広がったいかにも紅鹿背らしい景色が綺麗。本日が初使いということでお客様方も大変喜ばれておりました。替茶盌は永楽善五郎作の「大八嶋」図。令和の御代の始まりを寿ぐお茶盌でありました。
茶杓はお家元作の銘「青海波」。共筒に「不式庵」とあり、これもお若い頃の作ではないかと。美しい煤竹を使った薄作ですが、こちらも大好きな茶杓とお席主のお話。白磁の菓子鉢は先述の通り清々しく、御菓子は時季に合った「初がつお」で半田松華堂製。
お道具組を拝見する際、お家元が「触ってみないと本当の良さはわかりません」と、より積極的に手に取るようにお勧めになるのも「弥生会」らしい光景です。はじめは緊張されていた方々が、興味深げに手に取られた時の反応も、驚かれたり、思わず声をあげられたりと実に新鮮で、これも「弥生会」ならではかと。お席主のお心遣いによって、まだお茶会に慣れていない方々の緊張感も解れ始め、会話も弾むようになりますとお席が和やかな空気に包まれてゆくのが分かります。「弥生会」が本当に有意義な会であると改めて実感できた一日でした。

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