熊野那智大社
「御献茶式」「記念茶会」
十月四日(日)
平成二十年より始まったご流祖所縁の地、熊野那智大社様でのお家元の御献茶勤仕も今年で八回目となります。特に平成二十三年の大水害のため那智の御瀧前での御献茶式は途絶えておりましたが、昨年ようやく復興された別宮飛瀧神社にてお式が再開できました。しかし昨年は残念ながら雨のため屋内での斎行に。本年は見事な晴天に恵まれまして、ついに待望の御瀧前での御献茶式となりましたことは、何よりも嬉しいことでありました。
十月四日午前十時より、別宮飛瀧神社、那智の御瀧前にて「御献茶式」が執り行われました。
まず朝日芳英宮司様はじめ神職の方々が着座され、続いてお家元、翠鶴先生、若宗匠、智大様、そしてご社中の皆様が席に着かれますと大太鼓の音が那智の山々に鳴り響きます。
「修祓の儀」にて参列者全員がお祓いを受け、「祭主一拝」ののち御神餞が献じられ、祭主が御瀧に祝詞を奏上、そして「献茶の儀」となってお家元が点前座に進まれて御献茶点前をなされました。
流れ落ちる御瀧の水音だけが響くなか、お家元が丁寧に点てられた濃茶、薄茶の二碗は神職の方により御神前に奉られ、お点前を終えられたお家元も拝礼してお席へ。次いで那智の瀧舞の御奉納があり、やがて祭主が御神前に玉串を奉りて拝礼、続いてお家元も玉串を奉呈。ご参列の方々もあわせて拝礼して、本年の「御献茶式」無事終了。終了後に取材を受けられたお家元の晴れやかな表情がとても印象的でありました。
「記念茶会」は那智大社境内〈斎館〉に、お家元席として「拝服席」が、また「副席」として表千家くまの清和会様のお席がそれぞれ設えられておりました。
「拝服席」では若宗匠がお点前をされ、智大様が半東をお務めになりました。
この日のお道具組はいずれも秋らしいもので揃えられておりました。
床の御軸は如心斎宗匠筆の「飛石の画讃」。〈茶ノ湯には 梅寒菊に水仙花 青竹枯木 暁の霜〉。
唐物籠には山芍薬の実、丘虎の尾の照葉、紀伊上臈杜鵑に竜胆。香合は細かな細工が施されてある青貝。
撮みが梔子の芦屋の真形釜は総霰の切り合せ風炉。お家元好の方円棚には色彩豊かに花の絵が描かれていたオランダ水指。
茶器は雪吹茶入で見事な葡萄蒔絵。箱書には不蔵庵所持と記されておりましたが、この方は江戸下谷洞雲寺住職にして宗?流を再興したという不蔵庵龍渓。
主茶碗はご流祖手造の赤楽で銘「浦の苫屋」。大きく厚手で存在感のある茶碗です。替茶碗は朝日焼で当代十五世豊斎氏の父上である松村猶香斎の作。こちらは薄手で透明感のある色合いが特徴的。
茶杓はご流祖作の銘「きりぎりす」。蓋置はご流祖好の宝殿写。菓子は地元珍重庵製。
毎年参加されているお客様からは、これほど理想的なお天気に恵まれたのは八回目にして初めてではないかとのお言葉がありましたが、途中参加の当方も那智大社の境内から海が見えるのに今回初めて気づいた次第。
昨年は帰り際に「来年は是非晴れますように」と祈願しましたが、その念願叶って御瀧前での御献茶式に参列できた嬉しさは何事にも例えようもなく、皆様方とともに那智の御瀧の御蔭により心が洗われた一日となりました。