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平成二十七年度 江戸千家不白会 東京支部正会員研究会

2015年10月12日(月)

平成二十七年度
江戸千家不白会
東京支部正会員研究会
九月二十日(日)
(大手町・日経ホール)
本年度の「東京支部正会員研究会」は、大手町にあります日経ホールにて九月二十日に開かれました。
九月は不順な天候続きで、関東・東北の大豪雨被害の記憶も新しいこの日でしたが、そうした悪い天気を吹き払ってくれるような快晴に恵まれ、もうこのまま穏やかに秋日和が続いて欲しいと願わずにはいられなかった一日でありました。
今回の「正会員研究会」の内容は次のとおり。
・講演「俳句の豊かな世界」
講師:俳人・堀本裕樹先生
・講習 お家元宗匠御指導による
「四事一行」「重ね茶碗」

さて本年はいつの間にやらシルバーウィークと呼ばれている五連休中の開催であるため、例年と比べてご参加の人出が心配されましたが、十一時の受付開始から続々と皆さんがお出ましに。定刻の十二時に開会し司会進行は澤田宗直様。まず「開会の辞」を小松宗良様が述べられてから、東京支部長・翠鶴先生がご登壇になり開会の御挨拶をされ、連休中にも関わらず大勢様がお見えになったことへの御礼の言葉を述べられました。
続いてお家元よりも御挨拶を頂戴しましたが、本日九月二十日はお家元のお誕生日であることが司会の澤田様より告げられますと場内に大きな拍手が湧き起こり、ご社中を代表して西村宗美様よりお祝いの花束が贈呈され、全員でお家元の八十五歳のお誕生日を祝し、末永いご長寿を祈念いたしました。
次いで若宗匠がご登壇になり、日頃からの諸行事へのご協力に対し御礼を述べられ、この一年間のなかでも特筆すべき「高野山大法会」の思い出について、ご流祖と高野山の御縁や思いがけぬほど多くの皆様がご参加下さったことで高野山の皆さんも驚き喜んで下さったことなどお話になりました。
また若宗匠よりは本日の講師である俳人・堀本裕樹様のご紹介も頂きました。
堀本様は新進気鋭俳人として今日広く注目を集めておられますが、特に今年芥川賞を受賞したピース・又吉直樹さんの俳句の師として知られ、本年五月には共著で『芸人と俳人』という本も出版されています。若宗匠との御縁は、堀本様のご出身がご流祖のお生れになった紀州新宮に隣接する紀州本宮であり、第一句集の題名も『熊野曼陀羅』とのことで熊野の地を通してご流儀との深い御縁が感じられますが、そうしたことを熊野那智大社での御献茶式の折に若宗匠がお知りになり、以後「フェイスブック」上でのお付き合いが始まったとのこと。
この後、プロフィールのご紹介があり、堀本様がご登壇になっていよいよ御講演「俳句の豊かな世界」が始まりました。
事前に配られたプリントにはご流祖作の句、堀本様作の句、そしてこの日の講演のためにご流儀の皆さんが投句された句の中から、堀本様が選ばれた入選六句(天地人と並選)が印刷されており、このプリントを見ながら〝俳句の世界〟がより身近に感じられる御講演でありました。なお今回の兼題は「秋風」。投句数は七十二句。
まずは『不白翁句集』より堀本様が選ばれたご流祖の句は次の五句。
西行のむかしをけふの櫻哉
大ひらめ泥にぬたうつ汐干哉
氏神の杉見違える茂りかな
霧深き浮世の外も憂世哉
明月や蟻の這ゆく垣隣
それぞれの句にご流祖が記された前書きを紹介されながら、ご流祖の視点の素晴らしさやユニークさを説明され、中でも切れ字「哉」の使い方が絶妙であると。また「品性とユーモア」があるとも仰有られておられました。
続いて堀本様が句集『熊野曼陀羅』より選ばれた五句は次のとおり。
新宮のやしろ明るし鳥の声
はらわたに飼ひ殺したる目高かな
那智の瀧われ一滴のしづくなり
紀の国の水澄みて杉澄みまさる
磐座を朝熊竜胆灯しけり
いずれの句も舞台が「熊野」になるだけで親しみが湧くのは江戸千家の方々ならではのこと。この五句を一つずつ解説されながら俳句の成り立ち方、味わい方がだんだんと分かってまいります。
最後に入選六句についても解説して下さいました。中には「季重なり」の句、「字余り」の句もありますが、堀本様はあまりこうしたことにはこだわらず、むしろ作者があえてそういった句を詠んだその気持ちが大切だと強調されましたが、その柔軟で自由な発想に驚かされた次第です。
さてその入選六句をご紹介しますが、「さすが御茶をなさっている方は教養が高い」と堀本様。当方も素人目ながらいずれも結構な句ばかりとただただ感服。

天 秋風やきのうと同じ曲がり角
地 南島の遺骨(ほね)に秋風吹くや否や
人 秋風に色濃くなりて山ごぼう
並選
秋風やさびしさはこぶ亡き母へ
秋風に少し延ばせし試歩の刻
こうろぎのひげのそよぎや野分立つ

作者名はあえて省かせていただきましたが、例外として地に入っている句は本誌に「茶趣ところどころ」を御連載いただいている小宮山宗輝様の御作。ご愛読の皆様ならば既にお気付きかもしれませんし、本年四月号の文章をお読みいただければ「南島」が「ペリリュー島」を指していることはお分かりかと思います。戦後七十年の今年、より感慨深い一句でありました。
入選句の作者の内で小宮山様をはじめ何名様かが来場されておりましたので、壇上の堀本様の質問に答える形で句を詠まれた時の状況や心情などをお話下さいました。
予定の一時間はあっという間に過ぎ、最後に俳句は〝座の文学〟であり、今日皆さんとこの素晴らしい座を共有できたことがとても嬉しく思っております、とお話下さり講演を締め括られました。
今年も熊野那智大社に伺うことになっていますが、例年とは違う感じ方が出来そうで楽しみになってきました。

二十分の休憩をはさんでお家元御指導の講習が始まりました。
最初に「四事一行」。舞台上に八畳のお席が設えられ、正客・次客・詰・半東・東の五名様が席入りされて御稽古がスタート。ご存じのとおり炉での「五事一行」に対して風炉での「四事一行」。ご流祖が考案された「五事一行」は毎年〈利休忌〉で拝見しておりますが、七事式より五事、すなわち全体を且座の形をとりながら廻り花・廻り炭・花月・一二三を行うもの。これは風炉では行われませんでしたが、この日のお家元のお話によると、一元斎宗匠が書き残された書物の中に「四事の場合には廻り炭を省略する」とあり、但し一元斎宗匠ご生前中にはなされなかったようで、お家元がまとめ直されたのが今日の風炉での「四事一行」でございます。「五事一行」と同様大変長い時間を要しますが、今回の講習も約一時間三十分あまり。濃密な時間が流れてゆきました。
五分ほどの休憩中にお席が改められて「重ね茶碗」の講習となりました。「四事一行」ではその内容のため殆んど直接の御指導が入りませんでしたが、「重ね茶碗」ではほぼ同時進行的にお家元がお点前の要点やお道具についてご説明下さいました。床の御軸は御流祖「武蔵野の画讃」。重ねられたお茶碗は上が薩摩、下が膳所。宗旦好の黒塗の丸卓に九谷の水指。雪華棗、茶杓は一元斎作の銘「鳴子」、一閑人の蓋置。
こちらでも東と正客の間の計り方を細かく御指導に。例えばお点前中には御挨拶はせず会釈程度にとどめておくことが大切であり、東の手が空いているのを見計らってから御挨拶するようにと。その他にもお点前の進み具合に従って適宜御指導が入りましたので、御覧の方々にはとても役立ったことだと思われます。
「重ね茶碗」は約三十分で終了し、最後に今野宗博様が「閉会の辞」を述べられて、本年度の「正会員研究会」も滞りなく修了となりました。
いつもとはひと味違う研究会でしたが、得る事柄が多かった一日であったと感じつつ家路につきました。








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