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直門皆伝者研究会

2015年10月2日(金)

直門皆伝者研究会
八月二十七日(木)
二十八日(金)
二十九日(土)
酷暑が続いた今年の夏が急速に秋めいてきた八月末。本年も恒例の「直門皆伝者研究会」が八月二十七日から三日間、江戸千家会館にて開かれました。
毎年記しておりますが、この会は支部長か支部長に準ずる方で、真台子をお受けになっていらっしゃる方(東京の場合はお受けになって三年以上の方)という特別な資格の方々が参加できる研究会であります。
以下、その三日間の模様を御報告いたします。
初日は快晴、暑いながらも気温はさして上がらず秋の気配が感じられる日和。定刻の十時半には三階大広間に大勢様がお集まりになりました。
まず開会にあたりお家元、翠鶴先生、若宗匠より御挨拶があり、お家元からは今回の研究会の主旨について、特に初日と二日目の講習内容についてご説明がありました。
この二日間は三畳台目にて、初日は風炉、二日目は炉で、それぞれ「正午のお茶事」の形式に則りながら、その中に習事『十三箇条』の内のいくつかを出来る限り取り込んでの御稽古となりました。お家元のお話では、これまでも一つ二つのお点前を取り入れたことはあったそうですが、今回ほど多くのお点前を含めた講習は初めて試みであるとのこと。当然ながら大広間に張り詰めた空気が流れましたが、誠に充実した講習内容であったと感じられた次第です。
先述のとおり初日は風炉でのお茶事です。お客様四名と東一名の都合五名様がご指名を受け研究会の開始となりました。なおお茶事の形式による御稽古ということで、この五名様は午前と午後を通してお務めになりました。
まず席入りからスタートしましたが、最初からお家元より丁寧なご指導がありました。三畳台目のお席は、これまでもこの研究会でたびたび拝見してきた白い仕切り板で囲われていますが、簡単の作りながら実に重要な役割を果たします。特に今回のような小間の場合ですと、席中での身の動かし方や互いの距離の取り方などが見ているだけでもよく分かり、また躙口、通口、茶道口にはそれぞれ開閉出来る引戸が設えられておりますから、出入のタイミングや、戸を閉めるべき場合と開けたままでも良い場合、あるいはお客様との間の計り方などについて、より具体的にお教えいただけて理解しやすく、受講された皆さんには大変に役立ったことと思います。
さて席入りから御挨拶が終わり、ご亭主が風炉釜を清められ、「時分どきですから――」と懐石の御挨拶をされたところで一旦休止、時間の都合で懐石は省く旨のご説明があり、炭点前となりますが、本日はこれに『十三箇条』の内より〈盆香合〉のお点前が加わりました。
いつもようにお家元はすべての講習を間近より見守られ、適宜御指導をされます。
やがて香合の拝見も済み、御菓子が出されて中立となりお客様はお席を退出。ここで初日の午前の部は終了し、お昼休みに。ちなみにこの日のお掛け物はご流祖の「瀧の画讃」。お家元より〝今年も那智の御瀧で御献茶がありますので〟との御言葉が。
午後の部は後入りから始まります。お昼休みの間に床が改められており、『十三箇条』の〈花所望〉へと移り、お正客の方がお花をいけられます。
次のお濃茶は〈包帛紗〉でのお点前。そして続薄茶では替茶器としては〈四滴ノ内より〉弦付を用いてのお点前と、本日は誠に盛り沢山の講習であります。
お家元よりは、〈包帛紗〉では棗と茶入とのお点前の違いについて御指導があり、また本日の茶器はご流祖在判「鶴亀棗」の本歌。御流儀ではよく知られている「鶴亀棗」ですが、その本歌を拝見出来る機会は少なく、席中の皆さんも大変喜んでおられました。
続薄茶では弦付茶器での茶杓の扱い方などについて御指導が。またお次客に御茶が出されたところで先ほどの「鶴亀棗」と帛紗の拝見となりますが、その際に事前に水屋でのお茶碗の支度の仕方などについても言及されました。これは水屋に他のお手伝いがいないという設定のためで、「近頃は滅多にそんなことはないと思いますが」とも仰有られましたが、心構えとして御教示であったと拝察いたしました。全体としてこの場で強調されたのは「亭主の働き」についてで、とにかく間が空かないように動くことと、これに関連して、お道具の引き方など、お詰に入られた方の働きに関してまで幅広い御指導でありました。
さらに興味深かったのが、最後にお正客からご亭主への「お仕舞い下さい」という御挨拶について、お家元は「お薄の場合の御挨拶は〝一応(、、)お仕舞い下さい〟と言うのが決まりなんです。本当はもっと頂きたいのだけれども、ご亭主も大変でしょうから〝一応(、、)お仕舞い下さい〟と。単に〝お仕舞い下さい〟とか〝どうぞお仕舞い下さい〟と言うだけではだめです」とご亭主への心配りを強く仰有られていたのが印象に残っております。
最後にお正客がいけられた花をあげ、懐紙に包んで床に置き退出、他のお客様も続いて退出されて本日の講習は終了。一日の締め括りに御茶と御菓子を頂きました。初日の御菓子は鶴屋八幡製「水牡丹」。
二日目は朝方から曇空、午後から時折小雨が降り、気温も前日から五、六度下がりましたが蒸し暑さだけは残った一日。
前日の予告通りこの日は炉での「正午のお茶事」。但し午前中は釣釜でのお点前なので四畳半に、午後からは三畳台目に改めての御稽古となりました。
お客様五名と東の計六名のお名前が呼び上げられ早速二日目の講習に。まずお家元が立たれて、午前中に取り上げられる『十三箇条』の内より〈軸飾り〉について、御軸の取り扱い方などを含めてご説明があった後、昨日同様席入りからお茶事が始まり、御挨拶、そして〈軸飾り〉へと続いてゆきました。次いで釣釜での炭点前となり、香合の拝見が終わりますと、ご亭主より「粗飯を差し上げたいと存じます」と御挨拶があり、本来はここで懐石となりますが、本日はここで早めのお昼休みに。お家元が〝中立の中立ですね〟と仰有ると、それまで緊張されていた皆さんが一斉に笑顔に。
お昼の休憩後、懐石から再開、とは言っても時間のかかる懐石の全部は無理なことなので、本日は八寸の箇所からとなります。ご亭主が座布団を勧め、御膳(折敷)や盃の出し方受け方、置く位置、お椀などの返し方、さらにお席の畳の大きさの違いよって微妙に変わるお正客の座るところなど、本式の懐石でなくともその作法について事細かに丁寧な御教示がありました。お銚子にはもちろんお酒が。江戸千家では最初に冷酒、次に燗酒とのこと。他の御流儀では最初からお燗の場合もあり、御流儀による違いは大きいのでお招きを受けた際には臨機応変に対応するようにとのお教えもございました。お肴も出て、お正客がご亭主に盃を勧め、ご亭主が「お流れを」と応え、盃の献酬もあり、またこの間にお家元がご自身の体験談などを御披露になりますと笑い声もおこり、大広間全体が和らいだ雰囲気に包まれます。
やがてお正客が「もう十分に頂戴しましたから――」と申され、御膳が下げられてから、ご亭主は主菓子の入った四段の縁高をお正客の前に置き、中立の御挨拶。お正客より器が順次送られ御菓子を頂き、続いてお正客から順にお床から拝見をして退出。ちなみに二日目の御菓子は虎屋製「水仙紅葉重ね」。以上、誠に大雑把ながら当編集部として初めて拝見した(八寸のみとはいえ)懐石の講習を御報告。以下は頁数の関係上駆け足で。
さて中立となってご亭主役の方のみ変わりお濃茶点前に。ここでのお点前も『十三箇条』の内から〈組合点〉。茶碗は高麗の柿の蔕茶碗、茶入は瀬戸の銘「走水」、水指は杉本貞光作の信楽。
お濃茶を頂いたところで、すでに午後の部の講習も長時間に及んでいたので休憩が入りましたが、これは薄茶を頂く前に、やはり『十三箇条』の内の〈炭所望〉があるためでもありました。
〈炭所望〉ではまずご亭主が炉から炭を取り出し、炉の内を清めてから元の炭を三つ戻して灰を掛け、羽箒で掃き清め、お正客に「お炭を願います」と。お正客は通口から退出、茶道口より炉の前に入り炭をつぎ、つぎ終わると元の位置に戻り、ご亭主が御礼を述べ、香を置き、釜を据えて改めて羽箒で点前座を掃き清めて、お客様方が香合を拝見している間に準備をして薄茶点前へと進みました。長丁場だった二日目の講習も終了。前日以上の濃い内容に驚かされました。
三日目は朝から小雨。気温もさらに下がりましてすっかり初秋の感。
本日は八畳での御稽古。また白い大きなスクリーンやビデオカメラセットが設置されているなど、これまでの大広間とは様子が異なりお集まりの皆さんもどこか落ち着かぬ感じでした。
さて八月二十九日は七代一円庵蓮々斎宗匠の御命日。よって講習に先立ち、床に掛けられた御尊像に御茶をお供えすることに。二名様がご指名を受け、それぞれ東と半東を務められての御供茶点前をされました。御茶が供えられますとお家元はじめ参会者全員が合掌いたしました。
御供茶の後、午前の部の講習に。本日はまず七事式より「茶カブキ」から。こちらも当方としては初めて拝見するもの。皆伝者研究会ですから皆さんよくご存じの筈ですが、あえてお家元がご説明をして下さり大変助かりました。
まずお正客からお詰めまでが八名、そして東に執筆と計十名様の名前が呼び上げられスタート。八名様が席入りされ、東が黒の塗り盆に同じく黒の小棗五つを載せ、これを棚に置き、一服目のお濃茶を点てます。
この五つの小棗、手前の二つが〈竹田〉と〈上林〉、三つ並んでいる方には〈竹田〉〈上林〉〈客〉、ここにそれぞれ三種の御茶が入っております。この三種の御茶を味分けて点てられた順番を当てるのが「茶カブキ」。ちなみに本日は〈竹田〉が味岡松華園「千代の昔」、〈上林〉が小山園「雪華の昔」、〈客〉がほ里つ「松鶴の昔」。
さて一服目をお正客から順々に頂いている間に二服目のお点前が始まり、これもお正客より頂いた後に細長いこより状の紙〝きりかけ〟が取り出されます。
この最初の二服が〝試しの御茶〟で〈竹田〉と〈上林〉。この二種の違いを覚えておいて、三服目からが〝本茶〟となりますが、ここからどの順番で点てるかは東の方のご裁量とのこと。お客様の方は三服目、四服目を頂くたびに〝きりかけ〟に〈竹田〉〈上林〉〈客〉のどれかを記して大きい折据に入れ、これを執筆の方が集約し「茶カフキ之記」を書かれた大きめの奉書紙に記録します。五服目は白湯でしたが、これは本茶を二服頂ければ消去法で自ずと三番目は判明するからでしょう。やがて執筆の方が書き終えた大判の奉書紙を巻いて東へ、そして東から次客に手渡されてから、東の方が本日の順番を発表して「茶カブキ」は終了。
お昼の休憩をはさんで、午後の部の講習は、七事式の内より「廻り炭」。ここで先述のスクリーンなどが活用されました。お昼休みの間に若宗匠がアームを調整してビデオカメラが炉を真上から撮影出来るように設置されまして、この画像がそのままスクリーンに映し出される仕組みになっておりました。
「廻り炭」はご存じのように東と客一同が炉辺に寄り、各自が思い思いに好みの形で炭をつぎ、その変化を愉しむもの。こちらはこれまで何度か拝見しましたが、残念ながら炉の内でどのようなことが行われていたのは当然ながら分からぬままでおりましたが、こうしたことはご参加の皆様も同じ思いだったようで、そのためにこれまでつがれた炭の形を記録するいろいろな方法が試されてきたともお聞きしましたが、その解決策として今回のカメラ導入は画期的なことでありましょう。
この日は東とお客で計八名様での御稽古となりましたが、掲載写真を御覧いただければ分かりますように、炉の中の様子がはっきり分かり、文字通り炭の様々なつぎ方を愉しめましたし、またお家元の御指導が適確に炉内に反映する様子はご参加の方々にとっては大変に勉強になったことと思われ、誠に皆伝者研究会らしい講習でありました。
以上で三日間の講習はすべて終わり、最後にお家元と翠鶴先生よりお一人ずつに「修了証」が手渡されて本年度の皆伝者研究会も無事終了。
例年になく内容の濃い充実した三日間で時には緊張感も漂いましたが、講習の合間にお家元がユーモアを交えて語り掛けられることで大広間に笑いが起こり、皆さんの緊張がほぐれてゆくのが感じられましたが、そのお心遣いにも感動した研究会でありました。










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