本誌でも既報のとおり、四月十一日より上野の東京国立博物館〈平成館〉において特別展「茶の湯」が開催されております。東京国立博物館での大規模な「茶の湯」展は三十七年振りですので広く注目を集めておりますが、本展には御宗家も特別協力として参画されております。
会期中は各御流儀が持ち回りで呈茶席を持たれますが、御宗家におかれましても二十二日(日)にお席持をされました。但しどの御流儀の場合でもお茶席は8回限定、しかも入席券は当日販売のみなので、九時半の受付開始とともにすぐ全席完売に。こうした情報を本誌上でもっと詳しくお知らせすべきだったと反省している次第です。
呈茶席は〈平成館〉一階ラウンジに。当日はお点前を峯雪先生が務められ、お家元と若宗匠も毎回御挨拶に出られて、お客様方の御質問などに懇切にお答えになっておられました。
お席は高円卓による立礼席。特設の床に御軸は如心斎筆「江國春風吹不起 鷓鴣啼在深花裏」。平
安神宮の御軸と同じ禅語ながら、こちらは散らし書き風の詠草。掲載写真を御覧いただければお分かりのとおり、如心斎宗匠の書風は闊達そのものであります。さて語句の意味ですが、鷓鴣とはキジ科の鳥のことで〝江南に春風が吹いても波は起たず、咲き乱れる花のさらに奥深くでは鷓鴣の鳴声が聞こえる〟となり、さらに意訳を重ねれば、平穏な心で自然に接すれば自ずとそこに「仏」が見付かるはず、となります(これでいいのか少々不安ですが)。
お花は白と紫の鉄線が二種、翠鶴先生によって時代の木耳籠に美しく生けられておりました。香合も美しい光線を映す杣田貝の香合。この日は初めて拝見された方も多く、顔を近づけて御覧になる方が多くお出ででした。
剣釜はご流祖好のものを本誌連載でお馴染み二代長野垤志様が棗型に改鋳されたというお釜。茶器は守屋松亭作の八橋蒔絵の平棗。改めて守屋松亭は昭和の名工だったと実感できる見事な作でした。
さて、お家元より伺ったお話によると、今回は初めてお茶席に入られる方も多いのではとのお考えから、出来るだけ分かりやすいお道具組を目指されたそうで、確かに高円卓にオランダ水指と主茶盌に安南、替茶盌に白薩摩が並びますと、ちょっといつもとは違った感じを受けました。しかし、御推測のとおり初めて方や海外からのお客様も多く、この取り合わせに強い興味を示していた方が多かったのは間違いないと思われます。
お茶杓はご流祖作の銘「粟津」は近江八景「粟津晴嵐」より御銘。御茶は味岡松華園詰「松の齢」、御菓子は鶴屋吉信製「皐月の風」。ラウンジの一画を簡単に仕切っての立礼席はギャラリーが大勢見つめている通常とはまるで異なる状況でのお席でしたが、春が過ぎ夏に入ろうかというこの時季らしい清々しさの感じられたこの日の呈茶席でありました。
(「孤峰―江戸千家の茶道」平成29年5月号より)