トップページ > 2017年11月10日 江雲会茶会

2017年11月10日 江雲会茶会

2018年04月20日(金)

大徳寺塔頭・孤篷庵様での「江雲会茶会」は数あるお茶会のなかでも特に長い歴史と格式を誇るお茶会と言われております。
十一月十日に開かれた「江雲会茶会」では、お家元が濃茶席のお席主を務められました。お家元がこちらでお席持をされるのは八年振りとのことで、快晴に恵まれたこの日、関西圏の方々だけでなく全国から大勢様が御参集になり、終日お席は大いに賑わっておりました。なお薄茶席となった〈忘筌〉ではMOA美術館様が席持をされ、雪舟筆「山水図」をはじめとする素晴らしいお道具組を拝見できたのも有難いことでありました。
当日は九時三十分より方丈(本堂)にて御法要があり、お家元と若宗匠も参列され、開山である江月宗玩和尚はじめ歴代御住職、そして茶道関係者のご供養をされました。
さてこの方丈の前を通り〈忘筌〉の広縁を抜け(こちらでは上半分が明かり障子で下半分が吹き放しとなっている有名な「舟入」を拝見)、左へ入った〈直入(ぢきにゅう) 軒〉とその奥の〈山雲床(さんうんじょう)〉に濃茶席が設けられ、〈直入軒〉の次の間(六畳)を寄付とし、〈直入軒〉主室(八畳)と四畳半台目の〈山雲床〉とでお茶席となっておりました。
まずは当日配布されたお会記に一
部加筆し転載いたします。
平成二十九年十一月十日
於 孤篷庵
江雲 会茶会 會記
濃 茶
主 江戸千家宗家家元
川上 閑雪
寄付 直入軒
床 大龍和尚 横物
諸悪莫作 衆善奉行
脇 如心斎 山画賛
住山揚甫内箱 外即中斎極箱
閑林独座草堂暁 三宝之聲聞一鳥
一鳥有聲人有心 聲心雲水倶了々
莨盆 流祖好 爪紅
煙管 如心斎好
火入 保全 黄交趾写 片口
莨入 堅木 茄子形 薬壷
本席 山雲床
床 養叟和尚 長生久公の賛 尺牘
真珠庵太室 天室極 添状
花  加茂本阿弥 燈台躑躅
花入 古銅 角 象耳下蕪
香合 伊賀 伽藍 型物香合 頭取
釜  蒲団釜 西村久兵衛造
炉縁 大徳寺山門古材
水指 信楽 矢筈口
茶入 流祖手造赤銘六祖 共箱
茶碗 小井戸 銘 高根 流祖箱
茶杓 宗旦 銘 磨盤 共筒
如心斎替共筒
三井家伝来  不白外箱
建水 曲
蓋置 流祖 竹 三冬枯木秀
御茶 孤篷庵好 一瓢の昔
丸久小山園詰
菓子 山巡り 末富製
器 雪輪紋透縁高
以上
お席では、若宗匠がお点前をされ、峯雪先生が半東を務められました。なお孤篷庵様といえば「喜左衛門井戸」ですが、残念ながら京都国立博物館の「国宝展」の方へ御出張中でありました。
いずれもなかなか拝見出来ないお道具ばかりでありましたが、紙量の都合上主立ったものについて順不同ながら以下に詳述いたします。
〈直入軒〉床の御軸はご流祖参禅の師・大龍宗丈和尚筆の「七仏通誡偈」。この偈は禅宗において特に重んじられ〝仏教思想を一偈に要約したもの〟(『岩波仏教辞典』)であり、一休禅師にも「諸悪莫作衆善奉行」と大書した有名な御軸があるそうです。
こちらと共に飾られたのが小井戸茶盌の銘「高根」。ご流祖の箱書には「井戸茶碗 詩江月和尚」とあり、その江月和尚直筆の貼り紙のある箱蓋も寄付にて拝見でき、御銘の由来などを知ることができました。井戸らしく梅花皮(カイラギ)も実に見事で、光線の具合によっては時に青味が浮かぶ色合も含め、美しさと存在感が感じられるお茶盌でありました。
付書院に飾られた香合も本席見どころの一つで、『型物香合番付』の中央部に「頭取」として「黄瀬戸根太」「志野寶珠」の間に記されている「伊賀伽藍」がまさにこの作。ほぼ初公開と承り驚き入った次第です。
一方〈山雲床〉の御軸も滅多に拝見出来ぬもので、大徳寺第二六世養叟宗頤和尚筆「長生久公の賛 尺牘」。大徳寺所蔵「長生比丘尼像」(重要文化財)の賛を養叟和尚が書かれておりますが、尺牘とはその草稿という意。つい最近発見されたそうですが、これにより重文「長生比丘尼像」の賛で判読出来ない箇所が分かったのが何より重要なのだと。この御軸と古銅花入に生けられた加茂本阿弥と燈台躑躅の照葉が〈山雲床〉の床に見事に調和し、さらに午後に入って墨蹟窓からの光が鋭くなりますと、薄暗い〈山雲床〉において床がうっとりするような美しさを帯びてきて、しばし呆然と眺めておりました。
また一般にはあまり知られていない養叟和尚と長生久公(長生宗久)について理解を深めるため、二人の師である大徳寺第二二世華叟叟曇禅師がそれぞれに与えた「道號頌」(が掲載された大判の書籍)を寄付に展示し詳しく解説して下さいましたので、席入してからも非常に親しく感じられ、お家元のお心遣いに感謝いたしました。
三井家伝来という茶杓は宗旦作共筒の銘「磨盤」。如心斎替筒箱にご流祖の外箱も添っておりましたが、こうしたことは良い茶杓にはよくあることだとお教えいただき、またこの御銘は禅語「八角磨盤空裏走」より取られておりますが、大徳寺開山・大燈国師は「正中の宗論」においてこの語をもって相手を論破し禅宗の危機を救ったと伝えられ、如心斎宗匠もこの禅語で悟りを得たと言われております。
なお当日若宗匠がお手前で用いられたお道具を簡単に記しますと、ご流祖在判共箱の利休型中棗に高麗御器茶盌が啐啄斎箱の銘「玉虫」。出袱紗は金モール。茶杓はご流祖作の銘「時雨」。
その他についてはお会記ご一読の通り、大徳寺様に所縁あるお道具組となっておりましたが、秋晴れの空のもと、建物ほぼ全体が重要文化財である孤篷庵様において、誠に充実感に満たされて帰路に就いた「江雲会茶会」でありました。
(「孤峰―江戸千家の茶道」平成29年12月号より)

方丈(本堂)での御法要
〈直入軒〉の床と付書院


〈山雲床〉


  |  

▲このページのトップへ戻る