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2018年1月10日より 宗家初釜

2018年07月13日(金)
本年も一月十日より御宗家では初釜が開かれ、連日多くのお客様方がお見えに。当編集部も十三日(土)にお招きを受け弥生町へ参上いたしました。
「センター試験」初日でもあったこの日は日本列島には記録的寒波が襲来。各地で大雪との報道があり、東京も晴天とはいえ例年にない寒さでありましたが、寄付から敷松葉と青竹が美しい露地へと抜けますと誠に清々しい気分となり、その心持ちのまま〈花月楼〉へとお席入いたしました。
正面の床にはご流祖筆の双幅「千年丹頂鶴 萬年綠毛亀」、その前に供えられた大きな鏡餅をはさんで、右にご流祖好の金獅子香合、左に如心斎好嶋台茶盌一対と無學宗衍筆の由来書。間の柱には大きな海老のお飾りが掛けられ、こちらにはご流祖作の赤樂嶋臺写も供えられております。また脇床には見事な松に葉牡丹、そして色鮮やかな南天が生けられ、紅白の玉椿が入った青竹から大きく枝垂れる結び柳も誠にお目出度く感じられます。注連縄飾りの竹台子には朱桶の水指とご流祖好の菊桐文の皆具。お釜は浄元作の亀の鐶付の寿釜。炉縁は新春らしい鶴の蒔絵。いずれも御初釜〈花月楼〉吉例のお道具組であります。
お家元、峯雪先生がお出ましになり新年の御挨拶を述べられましてから、今年もお家元がお点前をされました。半東を峯雪先生がお務めになり、高坏に飾られた御菓子は五色餡も華やかな銘「蓬莱山」。これも〈花月楼〉の吉例にて末富製の御饅頭。如心斎写樂九代了入作の嶋臺茶盌に丁寧にお濃茶を練られるお点前を拝見できるのも御初釜の有難さであります。
金襴に宝尽し紋様の仕服が添う大きな阿古陀形茶入と、これに合わせて作られたという厚みのある一元斎作の銘「福寿草」の茶杓もいつものお取り合わせ。出袱紗は土田友湖作、干支に因んだ有栖川戌文。
お濃茶を美味しく頂戴しておりますと緊張感もほぐれ、やがてお道具組ことなどお家元とお話ができますのもお客様方にとっては毎年のお楽しみで、今年は無學和尚による嶋臺茶盌由来書が話題の中心に。衒ったところのない書体は読みやすく親近感が湧いてきます。
「私でも読めますから、皆さんもすぐにお読みになれますよ」とお家元が仰有いますと、お客様方も揃って笑顔になり、より寛いだ雰囲気にお席が包まれます。
お家元より御案内を頂戴し、三階〈広間〉の点心席へ移りますと、こちらでは若宗匠にお出迎えいただきました。お祝いの御膳は本年も東京吉兆の調進。
若宗匠が松竹梅の朱塗の引盃に御酒を注いで下さり、皆様とともに盃をあげて新年をお祝いいたしました。〈花月楼〉から峯雪先生もお入りになり、御酒を勧めて下さいましたので、より賑やかなお席となり、お客様方同士の打ち解けた会話から心安らぐ気持ちで時を過ごしました。
点心席恒例の福引では、〈福〉札を引かれた方にはお家元筆の一行「語尽山雲海月情」が、〈禄〉札の方にもお家元筆「鶯語吟修竹」がそれぞれ贈られましたが、「語尽山雲海月情」とは、お互いに肚の底まで打ち明けて語り尽くそうとの意味ですので、まさしくこの日の気分にピタリと合う禅語でありました。
続いて二階〈担雪軒〉へ移りますと翠鶴先生が笑顔でお出迎え下さり、こちらでは薄茶と恒例の鶴屋八幡製「紅白きんとん」を頂戴いたしました。寄付に掛けられた色紙は「相国寺僧堂 韜光」とあることから小林玄徳老師の筆とお教えいただきました。
迎太歳閹茂(たいさいヲむかヘテえんもタリ) 春戌生而盛(はるノいぬしょうじてさかんナリ)
〈担雪軒〉には翠鶴先生とともに若宗匠も入られ、引き続き賑やかで楽しいお席となりました。
床の御軸は御初釜に相応しくご流祖が七十八歳の折に書かれた「歳暮歳旦の句」。
歳暮
良い春に明むと年の暮よぎる
歳旦
去年ハ老今年ハ若し松の色
茶の道ハ古きを以テ今年かな
青竹の花入にはつくばねと白玉椿。九谷焼の開扇香合も色鮮やかで縁起の良いもの。
巻貝の鐶付が珍しい釜は霰七宝丸紋の伊予芦屋。炉縁の千鳥に青海波の金蒔絵も美しく、風炉先は大亀老師が描いた「富士の画」を仕立てた稲尾誠中の作。青漆爪紅の糸巻棚には松竹梅の染付の水指と豊平翠香作、松鶴蒔絵の茶器。
主茶盌はご流祖手造の赤楽、銘「曙」。高台脇に白釉で花押があり、ご流祖の作としては珍しい薄作りでしたが、「実に良いお茶盌ですね」との声があがっておりました。
替茶盌は近江の高原焼。口辺下に注連縄が描かれているのもお正月らしく、景色の良い焼締めだとこれも好評でした。茶杓はご流祖作の銘「鳳凰」。また建水が磁州写、蓋置が三鳥居と、全体的に本年の〈担雪軒〉は初春を寿ぎつつ滅多に拝見できないお道具が多く、とても楽しませていただきました。
〈担雪軒〉では学校から戻られたばかりの智大様がお運びとして入られなど、御宗家揃ってのおもてなしにも恐縮。お客様方も大変に喜ばれており、いつになく会話の弾むお席となりました。
お家元は「当家の習わしで変り映えもいたしませぬが――」とお話下さいましたが、初春からお招きをいただき、江戸千家の伝統の中に身を置いて楽しく一日を過ごせるのが何よりも嬉しく有難いことと申し上げ、お席を辞した今年の御初釜でありました。
㈯〈担雪軒〉お運びをされる智大様

㈰〈花月楼〉の床

㈪如心斎好嶋台茶碗一対と無學宗衍筆の由来書

㈭〈広間〉 お家元筆「語尽山雲海月情」の御披露

㈬〈広間〉御酒を勧められる若宗匠

㈫〈花月楼〉お点前をされるお家元

㈮〈担雪軒〉 の御軸はご流祖筆「歳暮歳旦の句」


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