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2018年9月16日 第二十三回白石城茶会 若宗匠席持

2018年11月19日(月)
「白石城茶会」が今年も十六日(日)に開かれました。例年は他の御流儀の方々も懸釜をされる市民茶会ですが、第二十三回となった今回は〈濃茶席〉〈薄茶席〉ともに江戸千家が担当することとなり、若宗匠はじめ白石教場碧水会の皆様やご関係の方々は準備なども大変だったこと拝察いたします。しかし遠方からのお客様も多く、大勢様で終日賑わったお茶会となりました。
前日まで雨が続いたため天候が心配されましたが当日は見事に晴れ上がりまずは安堵。いつもながら天守閣を吹き抜ける風も心地良く感じられた一日でした。
大きな石段をのぼり三層天守閣に入りますと一階奥の〈点心席〉へ。こちらでお懐石を頂いてから二階の〈濃茶席〉、そして一階に戻って〈薄茶席〉という流れ。お客様方は合間に最上層で蔵王連峰をはじめとする見事な眺望も楽しまれるなど、誠に充実したお茶会となりました。
〈濃茶席〉は例年通り天守閣二階に設えられ、若宗匠が席主としてお点前も務められ、半東には智大様が入られました。
床の御軸はご流祖の箱書が添う啐啄斎筆の一行「月林散清影(月林清影に散ず)」。唐代の詩人杜甫による五言律詩「遊龍門奉先寺(龍門の奉先寺に遊ぶ)」の第四句目とのこと。月下の林は清らかな光を放つといった意味ですので、秋らしい御軸であります。
龍耳の花入は時代の胡銅。お花は秋明菊と水引。香合は青貝で甲蓋に「銅雀」と細工されておりました。なお「銅雀」とはお寺や城の屋根に飾られた銅製の鳳凰を指すそうで、天守閣でのお茶会に相応しい香合でありました。
風炉釜は芦屋で総霰真形の切合せ。棚は一元斎好の亀甲棚。亀甲棚には中板が月のものと蛤の二種あるそうですが、この日は御軸にあわせて月の方を選ばれました。亀甲棚に水指は藍阿蘭陀、飾り茶器にはお家元好の雪輪蒔絵棗が置かれましたが、このお取り合わせが特に他の御流儀の方々には大変好評でありました。
ご流祖作の赤樂茶入は銘「たちばな」。尻膨型でどっしりした安定感があり、仕覆は如心斎好の如心玉金襴。大小の宝珠が散っている紋様でした。
お茶盌は高麗半使。袱紗は縞模様が特徴的な弥兵衛間道でこちらは当代友湖の作。半使(判司・半洲)とは朝鮮使節団の通訳(通辞)のこと。来日の際、この手の茶碗を持参したことに由来しているそうで、その作風、形姿には種々あるようですが、この日のお茶盌は口造りが独特、内側に火間も走り、処々に淡く赤い丸斑が現れるなど見所の多いお茶盌だとこちらも好評でした。
また箱書は松平備前守正信で、蓋裏には古筆了伴の極書が貼付されておりました。松平正信は江戸初期の相模国甘縄(玉縄)藩(大河内松平宗家)二代藩主。こちらの藩は次代に上総国大多喜藩に転封になりましたが、その子孫である大多喜藩五代(大河内松平宗家七代)の松平備前守正路はご流祖の門人として知られておりますから、このお茶盌との所縁も分かります。また正路の長男(六代)正敬共々ご流祖とは大変親密な間柄だったそうで、大多喜での猪狩りへの招待の書状も残っていることなど、若宗匠より詳しく御教示いただきました。
茶杓は三代不白斎宗閑作の銘「藤袴」。三代宗閑の作は大変少ないとのこと。そのためか本杓は節下で金継ぎがされ鎹も打ってあり、貴重な茶杓であることが伝わってまいります。お点前でも大変気を使われるそうですが、やや幅広の作と胡麻竹の侘びた風情が天守閣内の茶室の雰囲気と実に調和しておりました。
〈薄茶席〉は天守閣一階〈点心席〉の手前に設えられた立礼席。こちらでは若宗匠とともに碧水会の御指導にあたられている仙台支部長・伊藤宗圭様がご亭主役を務められました。 
床の御軸は「八十三翁 不白」とあるご流祖筆の横物
寂しさはその色としもなかりけり
槇立つ山の秋の夕暮れ
「新古今集」巻四秋歌上にある寂蓮法師の和歌が書かれておりました。この歌は三夕(さんせき)の歌の一つとして知られており、茶道具の銘に多く引かれているのだそうです。
因みにあとの二首も記しますと、
心なき身にもあはれは知られけり
鴫立つ沢の秋の夕暮れ(西行)
見渡せば花も紅葉もなかりけり
浦の苫屋の秋の夕暮れ(藤原定家)
いずれも有名な和歌で「秋の夕暮れ」が結句になっておりますが、この御軸によって一歩先んじて深まりゆく秋の風情が感じられてまいります。また香合も秋らしく、螺鈿漆塗り蒔絵鈴虫の香合で輪島塗の鈴谷鐵五郎作、青貝で鈴虫を象った艶やかな作でした。
高円卓には菊地政光作の富士釜が据えられ、豊平翠香作の菊蒔絵棗、十五世豊斎作の朝日焼月白釉の水指、主茶盌の翠鶴先生手造の馬盥志野、扇面菊水の色絵薩摩の替茶盌などはいずれも華やか作でしたので、やや暗い立礼席の中で独特の光を放っているように感じられました。
その他のお道具組の詳細は文末掲載のお会記をご参照いただきたいと存じますが、天守閣から眺めておりますと、ちょうど夏から秋の端境に立っていることが実感できました。そんな移ろいゆく季節感を取り込みつつ、秋の訪れを感じ取れる見事なお道具句組の二席を堪能できた今年の白石城茶会でありました。
〈当日の会記〉
第二十三回 白石城茶会
時、平成三十年九月十六日
於、白石城天守閣
濃茶席
主 江戸千家宗家 川上紹雪
床 啐啄斎筆 一行
月林散清影 不白箱書付
花  秋明菊 水引
花入 胡銅
香合 青貝 銅雀
風炉釜 芦屋 真形総霰 切り合わせ
風炉先 鉄刀木縁 砂子流水紋
棚  八代一元斎不白好 亀甲棚
水指 藍阿蘭陀
茶入 流祖不白手造 赤 共箱
銘 たちばな
仕覆 如心斎好 如心玉金襴
茶器 当代好 雪輪蒔絵棗 共箱
茶盌 高麗半使 松平正信箱書付
袱紗 弥兵衛間道
茶杓 三代不白斎宗閑作
銘 藤袴 筒箱共
建水 鉄鉢
蓋置 八代室宗鶴手造 千切
御茶 蓮華菴好 千代の昔
味岡松華園詰
菓子 千代見草 菓心庵モリヤ製
器 当代好
青漆爪紅 雪輪透かし 縁高
以上
薄茶席
主 江戸千家白石教場碧水会
床 流祖不白 横物
寂しさはその色としもなかりけり
槇立つ山の秋の夕暮れ
花  吾亦紅 黄蓮華升麻 紫苑
花入 虫籠
香合 青貝 鈴虫 鐵五郎造
卓  当代好 高円卓
釜  富士 政光造
水指 朝日 月白釉 筆洗
十五世豊斎造
茶器 菊蒔絵 棗 翠香造
茶盌 翠鶴手造 志野 馬盥
替 色絵薩摩 扇面菊水
茶杓 当代作 銘 虫の声 筒箱共
建水 海鼠釉 嘉祥造
蓋置 水玉透かし 烈造
御茶 蓮華菴好 松の齢
味岡松華園詰
菓子 栗蒸羊羹 松華堂製
以上

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